17世紀オランダ・デカルト主義の論理学との比較を通じたスピノザ初期思想の研究
Project/Area Number |
23KJ1677
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
笠松 和也 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | スピノザ初期思想 / オランダ・デカルト主義 / アリストテレス主義 / 近世スコラ / 論理学 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、1650-60年代におけるオランダ・デカルト主義の論理学の文脈の中に、スピノザの初期思想を位置づけることによって、スピノザが初期著作『知性改善論』や『短論文』において、当初いかなる哲学を構想していたのかを復元することを目指す。特に、普遍を徹底的に排除して、個物の水準に定位する思考がどのように形成され、その後に変化していったのかを明らかにする。そして、このことが晩年の主著『エチカ』に見られる自己知の理論の発展とどのように関わっているのかを解明する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、スピノザ初期思想の哲学史的位置づけを明らかにするための準備作業として、17世紀半ばにおけるオランダ・デカルト主義の論理学に関わるテクストとその研究文献を網羅的に調査した。これにより、当時のオランダ・デカルト主義において、近世スコラ論理学の枠組みをいかに改変して、デカルト主義的「観念」に基づく論理学を構築するのかが課題となっていたことが明らかになった。その中でも、方法・カテゴリー・解釈という三つのテーマについて、顕著な変化があることが分かった。この三つのテーマの下で、スピノザ初期思想の位置づけを探る見通しを得るとともに、その分析に着手したところである。 方法については、イタリア・ルネサンスのアリストテレス主義から近世スコラに受け継がれたアリストテレスの論理学的著作の解釈、とりわけ論理学の本性に関する議論と分析・総合に関する議論が、オランダ・デカルト主義やスピノザにおいてどのように扱われているのかを分析した。また、これに基づいて、スピノザ『知性改善論』全体を整合的に読む解釈を提示した。 カテゴリーについては、実体・質・量・関係など、個々のカテゴリーごとに詳細な分析を進めなければならないという見通しを得た。この見通しの下、量のカテゴリーに関わるテーマとして、スピノザにおける延長属性の意義を考察した。ここから、スピノザにおける延長属性は、一と多の問題、無限と有限の問題、分割不可能性と分割可能性の問題と密接に結びついているという帰結を得るとともに、ここにおいてドゥンス・スコトゥスによって拡張された超越概念の問題系と、量のカテゴリーの変遷が交錯しているのではないかという仮説を立てるに至った。 解釈については、クラウベルク『新旧論理学』の重要性を再確認した上で、同書の文脈を理解するために17世紀後半のオランダにおける神学論争とスピノザの初期受容について概観を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、次年度からの在外研究に備えた基礎的な文献研究と問題の整理を中心に行う予定であったが、次の三つの点で期待以上の進展があった。 (1)オランダ・デカルト主義の論理学において、主に方法・カテゴリー・解釈という三つのテーマで、アリストテレス主義論理学を乗り越え、デカルト主義的「観念」に基づいた論理学を打ち立てようとしているという見通しを得た。これは、オランダ・デカルト主義の論理学の特質を明らかにするとともに、スピノザ初期思想をオランダ・デカルト主義の論理学の文脈に位置づけることを可能にするものである。また、ジョン・ロック『人間知性論』や『ポール・ロワイヤル論理学』との関係を考える上でも役立つ。その点で本研究を進める上で重要な成果と言える。 (2)スピノザ初期著作の一つである『知性改善論』について、イタリア・ルネサンスのアリストテレス主義から近世スコラ論理学を経由して継承された要素を解明した上で、同書全体を一貫して読む解釈を提示することができた。これにより、オランダ・デカルト主義の論理学の文脈における『知性改善論』の位置づけを分析することができるようになった。 (3)スピノザにおける量と延長の問題を分析する中で、一と多の問題、無限と有限の問題、分割不可能性と分割可能性の問題といった重要な哲学的主題との連関を明らかにするとともに、超越概念の問題系とカテゴリーの変遷との交錯というダイナミックな哲学史的問題の着想を得ることができた。このことは、オランダ・デカルト主義の論理学の文脈そのものの意義を解明する上でも重要である。 これらに加えて、次年度以降におけるエラスムス大学ロッテルダムでの在外研究に関する打ち合わせを円滑に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、初年度の文献調査と問題の整理に基づいて、第二年度は方法論、第三年度は論理学と形而上学の関係を扱う予定であったが、初年度に設定した方法・カテゴリー・解釈という三つのテーマに沿って、研究計画を以下のように具体的に再編成する。 方法については、初年度に示した『知性改善論』解釈をもとに、同書をオランダ・デカルト主義の文脈の中に位置づけ、その意義を解明する作業を進める。とりわけ1650~60年代のオランダにおけるデカルト主義の方法をめぐる議論との対比が重要となる。これに関しては、クラウベルクやフェルトハウゼンらの著作との比較を通して分析を進める。 カテゴリーについては、オランダ・デカルト主義だけでなく、『ポール・ロワイヤル論理学』やジョン・ロック『人間知性論』等も視野に入れつつ、近世スコラから批判的に受け継がれた個々のカテゴリーがどのような変遷をたどったのかを探究する。とりわけカテゴリーと普遍に関する問題について、ブルヘルスデイク、ヘーレボールト、クラウベルク、フーリンクスらの著作を参照しながら、『短論文』や『知性改善論』に見られるスピノザ初期思想の位置づけを明らかにする。これにより、スピノザやオランダ・デカルト主義における論理学と形而上学の関係について、新たな理解を得ることができるはずである。 解釈については、クラウベルク『新旧論理学』、『ポール・ロワイヤル論理学』、ジョン・ロック『人間知性論』を参照軸としながら、他者に自己の思想を伝える、あるいは他者の思想を解釈するという問題がスピノザ哲学の中にどのように見いだされるのかを探る。これに関しては、スピノザの初期著作だけでなく、『神学政治論』や『エチカ』の分析も行う。 以上の研究は、客員研究員として滞在中のエラスムス大学ロッテルダムで、現地の研究者と議論をしながら進める予定である。
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Report
(1 results)
Research Products
(5 results)