Project/Area Number |
23KJ1694
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 32020:Functional solid state chemistry-related
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山内 朗生 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | シングレットフィッション (SF) / 量子センシング / 量子コヒーレンス / 多孔性金属錯体 (MOF) / 電子スピン共鳴 (ESR) |
Outline of Research at the Start |
量子センシングは量子ビット間の量子もつれ状態といった量子的な特性を利用し、従来のセンシングを超える感度や空間分解能を達成する手法である。分子の電子スピンを用いた量子ビットはその拡張性から注目されているが、剛直な結晶系や極低温条件が要求され、センシング対象が容易にアクセス可能な系の利用は困難である。本研究では、金属-有機構造体 (MOF) 中に、量子もつれ状態を室温で生成可能な現象であるシングレットフィッションを起こす色素を導入し、量子センシングへの応用を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
量子センシングは量子的性質を利用し従来のセンシングに比べ高感度・高分解能なセンシングを行う技術である。採用者は量子センシングを実行するための基礎的な材料である分子量子ビット材料として、シングレットフィッション (SF) と呼ばれる現象に着目し研究に取り組んできた。SFの過程では量子もつれ状態にある4スピンから成る五重項状態と呼ばれる状態が生成され、単一の電子スピンを用いる通常の分子系に比べてより高度な量子操作を実行可能として、高性能な量子センシングへの応用が期待されている。しかしながら、五重項状態の生成には分子運動が必要である一方、色素の乱雑な運動は同時に緩和の原因となるため、量子ビットとしての運用に必要不可欠な五重項状態の量子コヒーレンス (スピンの重ね合わせ状態) を室温下において観測した例は存在しなかった。 これに対し採用者は剛直な構造を有しつつ、多数のナノ細孔によりセンシング対象をゲストとして内部に取り込むことが可能な材料である、多孔性金属錯体 (MOF) に着目した。MOF中にSFを起こす色素分子を高密度に配置することで、ナノサイズの空孔により五重項状態を生成するための最小限の運動性を維持しつつ、色素分子同士の立体障害により量子コヒーレンスを失わせる乱雑な運動を抑制するという戦略を考案し、SF分子を配位子として組み込んだMOFの合成を行った。パルスESR測定により五重項状態の量子コヒーレンスの評価を行い、世界で初めて室温下における五重項状態の量子コヒーレンスを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
室温量子センシングへの前提条件となる、五重項状態の生成とその量子コヒーレンスの維持を目指し、SFを起こす代表的分子であるペンタセンを有機配位子とするMOFを合成した。過渡吸収分光測定および時間分解ESR測定によりMOF中において五重項状態の生成を確認し、さらにパルスESR測定により世界で初めて室温で五重項状態のコヒーレンスの観測およびマイクロ波による操作に成功した。得られた実験結果からペンタセン骨格の運動のシミュレーションを行ったところ、MOFの格子振動に由来するペンタセン同士の配向変化が抑えられた運動により五重項状態が生成されていることが示唆された。高密度なSF分子の集積による分子運動の抑制が量子コヒーレンスの維持に効果的に寄与していることを明らかにし、今後の材料開発に対する指針を得た。 以上のことから、本研究の目的である量子もつれ状態を利用した室温量子センシング材料の開発に向け、当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、生成した五重項状態の室温量子コヒーレンスを用い、量子センシングへと応用する。まず、これまでに得られた量子コヒーレンスを長時間維持可能な材料設計に関する知見を踏まえ、合成条件の最適化による結晶性の向上や有機配位子として別の分子を導入したヘテロ系の構築に取り組み、量子もつれ状態の生成の最適化や操作手法の確立を目指す。その後、MOF中の細孔に標的となる物質をゲストとして取り込ませ、ゲスト取り込み前後の量子コヒーレンスの挙動の変化を調べることによりセンシングが可能かどうか検証する。必要に応じて、MOF構造中にゲストと相互作用可能な部位を導入することにより、超微細相互作用といったスピン間相互作用を利用し感度の向上を目指す。 また、従来手法のマイクロ波による量子状態の読み出しに比べ高感度である、光による量子状態の読み出し手法を検討する。有機配位子の励起状態のエネルギー状態や配向を制御することにより、SFの逆過程である三重項-三重項消滅 (TTA) も示す系を構築する。TTAにより五重項状態から生じた励起一重項状態 (S1) の蛍光を用い、光検出磁気共鳴 (ODMR) 測定を行うことで、光検出による高感度なセンシングを目指す。
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