Project/Area Number |
23KJ1981
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01040:History of thought-related
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
渡邉 真代 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,470,000 (Direct Cost: ¥1,900,000、Indirect Cost: ¥570,000)
Fiscal Year 2025: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | アラビア科学 / 古代ギリシア哲学 / ジャービル文書 / バランス理論 / 錬金術 |
Outline of Research at the Start |
9世紀から10世紀にかけてアラビア語圏で成立したジャービル文書は錬金術書群と目されるが、そこには錬金術に留まらない学知が記録されている。本研究では、人がどのように事物を認識するかを問う「知性論」、存在物の在り方を物的要因と理念的要因の二原理で説明しようと試みる「質料形相論」、性質の強弱を量として把握しようとする「質の量化論」、そして、あらゆるものを数に還元しようとする「バランス理論」の4つを軸に、写本校訂も行いながらジャービル文書を分析する。これにより、ジャービル文書はアラビア語圏における古代ギリシア思想の受容状況を物語り、かつ科学史と哲学史研究の両方に資する文献であることが示される。
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Outline of Annual Research Achievements |
9‐10世紀に成立したアラビア語による錬金術著作群と見なされているジャービル文書には、古代ギリシア思想の影響を受けた哲学的考察が見出される。本研究課題では4つのテーマ「知性論」「質料形相論」「質の量化」「バランス理論」を軸にジャービル文書を分析していく。 初年度は、伝説的錬金術師ジャービルの量化思想である「バランス論」に焦点を当て論文を執筆した。その論文は、ジャービル文書の未校訂の写本テクスト分析に基づいて、バランス理論の科学史上の意義を提示している。バランス理論は万物を数に還元する数量化思想であり、近代科学の基盤思想である定量化思考の萌芽とも言える。しかし、その原理が数の神秘性に根差していることを理由に、これまでの科学史研究においてほとんど注目されることはなかった。ジャービル文書内の量概念やそれに関連する用語の分析を通じ、数の神秘性への依拠がバランス理論の骨子である量化思想をも無効にしてしまうことはない旨を提示し、2023年度内にその論文の刊行に至った。 また、ジャービル文書に度々登場するharsiniという物質について口頭発表を行った。本研究課題は、哲学的議論に着目してジャービル文書を読解することを本筋としつつ、ジャービル文書の科学史上の価値を提示することも目的としている。そのため、思想分析には当たらないが、不明瞭な物質であるharsiniの化学組成を特定しようと試みた。Harsiniは、先行研究によって亜鉛である可能性が示されており、実際現代のアラビア語では同語が亜鉛を意味する。しかし、ジャービル文書の成立年代は、純粋な亜鉛の製錬技術が確立されたとされる時代よりも古い。Harsiniの特性についての一次資料の乏しさから口頭発表の内容は確たる結論にまでは至らなかったが、質疑応答の際に有益な助言が得られたため、同内容の考察を今後深化させる道筋が見えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
古代ギリシアの哲学者アリストテレスが提唱した質料形相論はアラビア語圏の哲学思想に多大な影響を与えており、錬金術の基盤思想にも入り込んだ。10世紀のアラビア語錬金術文献であるジャービル文書において論じられている質料形相論は、今日知られている質料形相論とは異なっているということが、これまでの調査で明らかになっている。そこで、その差異がなぜ生まれたのか、その異質な質料形相論がジャービル文書で提示されている科学思想にどのような特性を与えているかという観点で論文を執筆することが、2023年度の研究計画の一つとなっていた。その論文の草稿を携えてギリシア=アラビア学に通じた研究者との議論を目的に、イタリア・ピサへ赴き、そこで論考を完成させることを念頭に研究費の予算を組んでいたが、研究遂行者のイタリアへの渡航可能期間は年度末にしか確保できず、手続き上、年度末の出張の実施は困難であることが分かり、出張は次年度に延期することとなった。付随して、当初計画していた論文の完成も見送りとなったため、研究計画の進捗には遅れが出ている状況と言える。ただし、4つの研究課題「知性論」「質料形相論」「質の量化」「バランス理論」のうち、「質料形相論」については上記の理由で遅れが生じたものの、「バランス理論」については、投稿を予定していなかった論考が年度内に刊行となったため、計画は大きく遅れているわけではなく、「やや遅れている」程度だと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度末に研究報告を行ったharsiniという亜鉛と目される物質について、報告会場で得られた助言を活かしながら文献調査を押し進め、亜鉛製錬史に関する論文を仕上げることを2024年度の研究計画の一つとして新たに組み込む。Harsiniの分析は計画段階で想定していた4つの研究テーマのいずれにも分類されるものではなく、harsiniの調査が当初の研究計画に遅れをもたらす可能性もあるが、この物質についての考察はアラビア語錬金術文献の解読を進めるために必要な研究事項であり、これを公にできる形にまとめ上げることは意義があると考えている。 2024年度は、前年度に実施できなかったイタリアの研究機関訪問を実施すると同時に、その訪問によって改良が期待される、錬金術文献に記された質料形相論についての論文も完成させたい。 論文執筆作業とともに、今後も引き続きアラビア語写本読解を進めていく。写本の校訂テクストならびに訳文が一定の分量に達した段階で、それらを第三者の眼で確認してもらうための定期的な検討会の開催も予定している。
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