Research Project
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
インスリン受容体の発見から40年余、インスリンシグナルの上流はチロシン/セリン残基のリン酸化反応によって伝達され、下流はGTP/GDP変換(Rho GTPase等)によって伝達されると考えられている。今回、脂肪細胞に発現する蛋白質の網羅的検討から、新規メチル化酵素を発見した。さらに同分子が、複数のシグナル分子のメチル化を介して、糖輸送を調節していることが判明した。その反応時間は比較的早く、旧来信じられていたメチル化の非可逆的、あるいは、ゆっくりとした反応とは全く違う機序による生体調節機構であると考えられた。具体的には、メチル化をその阻害薬やメチル化酵素をノックダウンした細胞で検討すると、インスリンシグナルが亢進した。同時にGLUT4の膜へのトランスロケーションも亢進した。一方、酵素を過剰に発現した脂肪細胞では、インスリンシグナルが抑制され、GLUT4小胞の膜への輸送も抑制された。同時に細胞骨格の形態の変化を観察すると、様々な変化を観察することができた。インスリンシグナルの分子伝達における細胞骨格の役割が重要視されている昨今、興味深い結果である。以上の結果から、新規メチル化酵素によるシグナル分子の蛋白翻訳後調節としての役割が明らかとなった。本酵素は、短時間の内にインスリンシグナルを変調することから、生体における新たなシグナル調節機構の発見と考えられる。臨床的にも有意義で、当該メチル化酵素は糖尿病の新たな治療ターゲットとなる可能性を内包していると思われる。