Research Abstract |
本研究の目的は,小学校における児童の認知的多様性に応じた数学的モデリング指導を設計し,その有効性を検証することである。認知的多様性とは,現実世界における問題と対峙した際,児童が辿る数学的モデリング過程が様々であるという意味である。 研究方法は,まず,小学校段階から数学的モデリング指導を導入するためのアプローチについて検討した。文章題指導などの従来の指導内容の中に,仮定を設定する考え方を始め数学的モデリングで必要となる考え方を焦点化するアプローチと,数学的モデリングのサイクルそのものを取り込むアプローチが存在することを指摘し,本研究では,後者のアプローチを追究した。具体的な指導アプローチとして,(1)児童の認知的多様性が最も顕在化される場面である,現実世界の〓題場面から問題設定を行う場面に焦点をあてた指導と,(2)児童の認知的多様性に応じた,2つの数学的モデリングサイクル間の往還を図る指導を開発した。次に,代数や初等幾何の学習内容を前提としないモデリング教材を開発し,小学校第5学年と第6学年の児童を対象に実験授業を実施した。さらに,授業記録並びに児童の記述を分析した。 (1)の指導アプローチの分析結果からは,小学校における数学的モデリング指導で問題設定の活用を取扱うことは可能であり,問題設定の活動が数学的モデリングの素地指導になり得ること,(2)の指導アプローチの分析結果からは,問題の解決の見通しを立てられない児童にとっては,数学的モデリングサイクル間の移行が解決の足場となり,解決の見通しを立てられた児童にとっては,サイクル間の移行が数学的な知識や技能を更に発展させる機会となることが明らかとなった。これらの知見は,これまで国内外において困難とされ,事例が少なかった小学校における数学的モデリング指導の新たな可能性を示唆している。
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