【研究目的】 エルロチニブは、非小細胞肺がんに対する治療薬として広く使用される経口EGFRチロシンキナーゼ阻害剤である。肺がん患者においては、脳転移や頸部リンパ節転移による食道狭窄などにより、内服薬の服用が困難な症例も少なくない。内服困難症例に対し、安全かつ簡便に投与する方法として簡易懸濁法が近年注目されているが、エルロチニブの簡易懸濁法に関する情報は皆無である。本研究では、「エルロチニブの簡易懸濁法の確立」を目的として、エルロチニブ簡易懸濁法の条件を検討するとともに、肺がん患者における簡易懸濁投与時の薬物動態特性と安全性について評価した。 【研究方法及び成果】 懸濁時の温度条件及びpH条件を変化させ、エルロチニブの懸濁性及び安定性を検討した。さらに、簡易懸濁法を用いた非小細胞肺がん患者を対象として、エルロチニブ投与後の薬物血中濃度を高速液体クロマトグラフィー法により測定した。 懸濁時の水の温度条件下(25°C、55°C、80°C)において、懸濁開始初期での懸濁性は温度の影響を認めたものの、開始5分以降では温度の影響は受けず一定の値を示した。pH条件下(pH3.62、6.97、8.96)において、懸濁開始10分以降ではpHの影響は認められなかった。簡易懸濁法によってエルロチニブを投与した患者3名における血中濃度推移は、0時間後、2時間後、4時間後、24時間後それぞれにおいて1134±722ng/mL、225g±1253ng/mL、2292±1369ng/mL、1122±457ng/mLとなり、個人差は大きかったが、平均的には添付文書記載の通常内服時と同様の推移を示した。 以上より、エルロチニブの簡易懸濁法は溶解液の温度やpHの影響を受けにくく、薬物動態も内服時とほぼ同等であり、嚥下障害者に対する治療時の選択肢として有用であることが示唆された。
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