アドレノメデュリン(AM)は、全身の組織で広範に産生され、多彩な生理活性を有するペプチドである。AMノックアウトマウスのホモ接合体(AM-/-)は、心血管系の発生異常により胎生致死となる。我々は、AM-/-が致死となる胎生中期において、GPCR活性調節タンパクであるRAMP2の発現が亢進している事に着目し、RAMP2ノックアウトマウス(RAMP2-/-)を樹立した。その結果、RAMP2-/-では、AM-/-の血管系の発生異常が再現されると共に、AMの代償性の発現亢進が見られることを見出した。このことから、血管におけるAMの主要な機能は、RAMP2により制御されている事が予想される。本研究では、Cre-loxPシステムにより、血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスを作成し、血管におけるAM-RAMP2系の病態生理学的意義を検討した。 血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(E-RAMP2-/-)の殆どは出生直前に致死であり、胎生18.5-19.5日にかけて全身性の浮腫とともに、血管の構築異常と出血性変化を認めた。一方で、約5%のE-RAMP2-/-は、正常に生まれ、成体が得られた。成体のE-RAMP2-/-では、血管内皮細胞のRAMP2発現は、野生型の2割程度残存していた。E-RAMP2-/-では、肺、肝臓、腎臓などの主要な臓器の血管周囲に炎症細胞浸潤を認めた。更に、E-RAMP2-/-では、糸球体硬化症の自然発症が認められ、電顕像からは、足突起の融合、基底膜の肥厚、内皮細胞と基底膜の部分的離開などが認められた。 以上の結果から、AMの発生における血管新生作用が、RAMP2によって規定されていること、成体においても、AMによる血管保護作用、臓器保護作用がRAMP2によって制御されていることが明らかとなった。
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