Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
獲得免疫系を持たない昆虫などの生物においても、感染刺激に対する適応反応、すなわち免疫「記憶」機構の存在が示唆されており、発生において「細胞記憶」を担うエピジェネティック制御因子群が、このような自然免疫「記憶」に関与する可能性が考えられる。高等生物種間で保存された自然免疫系とエピジェネティック制御系を併せ持つショウジョウバエモデルを用いて、腸管自然免疫系による感染防御、免疫寛容、恒常性維持機構に関与する高度に保存されたエピジェネティック制御因子に焦点をあて、その作用機序を解明することで、自然免疫系におけるエピジェネティック制御の普遍原理に迫ることを目的とした。腸管幹細胞(ISC)におけるSet2(H3K36メチル化酵素)のノックダウン、およびKdm4A(H3K36脱メチル化酵素)過剰発現により、緑膿菌の経口感染に対する抵抗性が有意に上昇することを既に見出している。また、マイクロアレイ解析の結果、活性酸素種の解毒、細胞分裂活性化、DNA損傷修復,ストレス応答因子群の発現が上昇しており、酸化ストレス応答が生じている可能性が示唆されていた。これらの発現解析結果についてRT-qPCRで確認した。興味深いことに、これらの発現亢進は緑膿菌に依存しておらず、恒常的に酸化ストレス応答が亢進してる可能性が考えられた。酸化ストレス応答は、通常、健常維持に関わる常在菌に対する応答では、寛容制御により低いレベルに抑えられている。これらのことから、ISCにおけるH3K36meの減弱により、一見すると病原菌感染抵抗性が見られるが、実は寛容制御の破綻により慢性炎症に類似した状態にある可能性が考えられた。実際、緑膿菌感染無しで長期間飼育すると、Set2KDあるいはKdm4A過剰発現個体ではコントロールに比べて短命となり、さらに、常在菌を除去する目的で抗生物質を投与したところ、この寿命の差は見出されなかった。