Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
オートタキシン(ATX)は生理活性脂質リゾホスファチジン酸(LPA)を産生する血漿酵素である。我々はヒト、マウスにおける血漿ATXの検出法を確立し、ATXが様々な線維症疾患で発現が上昇することを見いだした。また、ATXの機能を個体レベルで阻害するATX阻害剤の確立に成功し種々の病態との関連を検討した結果、ATX/LPAシグナルが腎線維症を引き起こす重要な因子であることを明らかにした。本研究では、ATX/LPA経路がどのように活性化し、どのような作用で線維化を亢進させるか、そのメカニズムの解明を目的とし解析を行った。我々は、LPAを含む様々なリゾリン脂質のLC/MSによる定量系を確立し、結紮した側の腎臓に蓄積した尿の脂質解析を行ったところ、ATXの基質であるリゾホスファチジルコリン(LPC)が増加していることを見出した。特にATXのよい基質となる不飽和脂肪酸含有LPCが顕著に増加していた。ブレオマイシン肺線維症モデルにおいても、ブレオマイシン投与後の肺胞洗浄液について同様な結果が得られた。以上のことから、炎症が起こると、ATXのよい基質となる、不飽和脂肪酸を有するリゾリン脂質が何らかの機構で産生され、またATXが増えることでLPAの産生が亢進し、炎症・組織線維化が亢進していくことが示唆された。不飽和のリゾリン脂質はホスホリパーゼA1(PLA1)により産生される経路が想定されるが、我々はこれまでにリパーゼファミリー分子に属する分子のうちPLA1活性を有する、肝リパーゼ(HL)や内皮リパーゼ(EL)あるいはリポタンパクリパーゼ(LPL)が血中において、ATXに対する基質供給を行っていることを見いだしている。今後はこれらリパーゼの関与について、阻害剤、ノックアウトマウスを用いて明らかにしていきたい。