Research Project
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
樹木の幹の肥大成長は、森林の生産量を推定する上でよい指標となる。しかしその気象応答については未解明な部分が多く、その理由の一つとして、季節的な貯蔵養分の利用があげられる。そこで本研究では、ミズナラを用いて年輪内の炭素・酸素・水素安定同位体比の季節変化を調べ、幹の肥大成長をもたらす木部形成が貯蔵養分に依存する時期、および当年光合成産物に依存する時期を推定し、これらと木部形成や光合成の季節変化との対応を明らかにすることを目的として研究を行った。北海道大学苫小牧研究林で採取したミズナラの成木三個体の年輪試料を板状のままセルロースにし、顕微鏡下で年層内を等分に切り分けた。これらを用いて分析した結果、炭素および水素安定同位体比は孔圏部分では徐々に低下し、孔圏外に切り替わると同時にほぼ低下しきるというパターンを示した。炭素および水素安定同位体比の低下は、木材の形成における炭素化合物の由来の変化、すなわち貯蔵養分の利用から当年光合成産物への切り替わりを示していると考えられる。よって、孔圏では貯蔵養分を利用する一方、孔圏外への移行とともに当年光合成の利用に切り替わることが示唆された。また、酸素安定同位体比は一般に大気の相対湿度と相関が高く、これにより木材形成の時期を推定することができる。酸素安定同位体比の結果から、貯蔵養分から当年光合成産物への利用の切り替わり時期は7月初旬頃と推定され、個葉光合成速度が最大となる時期と一致することが示唆された。本研究の結果から、木部形成のメカニズムの一つとしてミズナラの木部形成における貯蔵養分の利用時期が明らかと成り、またこれが個葉光合成の季節変化ともリンクしていることが示唆された。これらの知見は、肥大成長および木部形成と気象要因との関係性を理解する上で非常に重要である。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Annals of Botany
Volume: 113 Issue: 6 Pages: 1021-1027
10.1093/aob/mcu026