Research Abstract |
研究目的 徳島市にあるマリンピア沖洲人工干潟は, 高速道路建設に際し埋め立てられる既存干潟の代償措置として2007年に造成された. しかしながら, 人工干潟の底生生物数は極めて少なく, 既存干潟を代償しているとは言えなかった. 本研究では, 生物相のみの評価から更に踏み込み, 食物連鎖網と言った種間関係の観点から人工干潟と既存干潟を比較し, 現状の人工干潟の問題点を評価することを目的とした. 研究結果 人工および既存の両干潟において, 食物連鎖網が構築されているかを明らかにするために, 両干潟に共通する一次消費者および二次消費者の窒素・炭素安定同位体比を測定した. ここでは, 一次消費者としてハマグリを, 二次消費者としてアラムシロを選んだ. ハマグリを栄養段階(TL)の基準生物(TL=2)として, アラムシロのTLを算出すると両干潟とも2.6であった。この値は, 小型甲殻類よりも一段階栄養段階が高い大型甲殻類と同等の値であり, 生物数が極端に少ない人工干潟においても食物連鎖網が構築されていることが確認された. 既存干潟の生物と人工干潟の生物で得られたδ^<15>Nを比較してみると, 人工干潟の方が小さい傾向が確認された. そこで, 干潟間で一次生産者の由来が異なるのではないかと考え, 干潟底質の安定同位体比分析を行ったが, 両干潟の底質ともδ^<13>Cは-21.0‰程度であり, 差は見られなかった. この値は, 両干潟の生産者が海域の植物プランクトン由来であることを示していた. 両干潟においてChl. a分析を行ったところ, 有意な差は確認されなかった(t-test, p=N. S.). しかしながら, 底生生物数は今年度も干潟間で大きな差が確認されており, 餌資源以外の問題があると考えられた. 人工干潟においては, 既存干潟同様に食物連鎖網が構築されており, かつ餌資源量に差異が無いにも関わらず, 底生生物量は極めて少ない状態が続いている, この隘路を打破し, 生物多様性の高い人工干潟に向けて, 今後は干潟底質に目を向けて研究を進めて行く.
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