Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本研究ではまず、sVCAM1による漏出性亢進をもたらす細胞生物学的変化の実態について解析を行った。はじめに、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に対しsVCAM1を作用させ、in vitroでの血管透過性評価において一般的に用いられる、蛍光標識デキストラン透過性アッセイおよび内皮電気抵抗(TER)評価を行った。その結果、sVCAM1は蛍光標識巨大デキストラン(2M Da)の透過性を亢進する一方で、TERには殆ど影響を与えないことが明らかになった。さらに、免疫細胞化学および定量的リアルタイムPCR改正の結果、内皮細胞間に接着を維持するタイトジャンクション分子の発現についてsVCAM1による発現の変化は見られなかった。これらから、sVCAM1はトランスサイトーシスの亢進によりナノ粒子の透過性を向上させる可能性が考えられた。そこで、sVCAM1の受容体として機能すると考えられているintegrin alpha 4が、sVCAM1による血管透過性亢進を介していると仮定し、siRNAによりintegrin alpha 4の発現を抑制したHUVECにおけるsVCAM1の影響を評価した。その結果、integrin alpha 4単独の発現抑制自体により、蛍光標識デキストランの透過性がsVCAMを作用させたときに比べさらに大きく亢進することが明らかになった。Integrin alpha 4の発現を抑制したHUVECでは、TER評価でも透過性亢進が認められ、さらにタイトジャンクション分子や接着結合分子の細胞表面への局在に不均一性が観察され、細胞間隙が顕著に拡大することが明らかになった。さらに解析を進めた結果、integrin alpha 4の発現を抑制することにより、アクチン骨格が細胞近傍から遊離する傾向が観察された。これらの結果から、integrin alpha 4発現陽性の血管内皮細胞において、その発現を抑制することにより、細胞間隙の拡張を介して巨大分子の血管透過性を亢進させられる可能性が示唆された。