Outline of Annual Research Achievements |
霞堤や水害防備林, 輪中などは地域社会と河川が共生する視点に立脚した伝統的氾濫許容型治水システムである. このシステムでは地域住民の理解と, 地域社会による維持管理が必要である. 本研究では, 豪雨災害からの復興にあたって河川の地形変容プロセスを定量化し, 伝統的治水工法の地形プロセスに与える影響、地域防災に与える影響を再評価した. 水害防備林は構築後の地形プロセスと対応し治水機能をより発達させる事例が確認され, 地形条件, 河川プロセスの異なる諸河川において, 伝統的治水構造物の実態と地形プロセスと治水機能を発達させる条件との関係を比較検討した. 水害防備林内の氾濫堆積物の粒度組成と堆積構造から, 水害防備林の洪水制御機能を評価する手法を使用し, 空中写真判読と現地調査による水害地形分類図作成とあわせ, 伝統的治水工法の立地環境と, 災害後の地形変容を明らかにした. 調査地域は, 茨城県久慈川, 福井県足羽川, 宮崎県北川, 秋田県雄物川, 三重県熊野川水系相野谷川, 奈良県木津川, 山梨県釜無川である. 久慈川は自然堤防が水害防備林立地により、さらに発達していることが地形測量により明らかとなった. 木津川, 釜無川では, 近年災害が起きていないために住民意識が薄れつつあるが, 伝統的治水工法をとりいれた啓蒙活動を地域単位でおこなっている. 宮崎県北川の激特事業は伝統的治水工法が採用され, 築堤後も生かされている. その一方で, 福井豪雨災害からの復旧で, 伝統的治水工法はほぼ消滅した. 水防災対策特定河川事業施行で, 氾濫の許容を前提とした熊野川の相野谷輪中堤, 雄物川では東北地方初の輪中堤が築堤されたが, 相野谷川輪中は2011年被災, 輪中堤が被害拡大を招いた可能性もある. 大規模水制の設置に伴い, 地域住民の防災に対する意識は減退する傾向が強く, 氾濫許容型を採用する新河川法は, 災害意識を向上させる点にも意義があることが再確認された.
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