【研究目的】 オフライン筆者照合では、これまで字形情報に着目した手法が中心であり、紙面への凹み・インクの濃淡等の潜在的な筆圧情報の活用は不十分であった。そのため前回の研究では、これらの筆圧情報を新たに抽出して筆者照合に活用することで、照合性能を改善した。しかし、実際に筆者照合を現場で運用する場合には、対照筆跡(筆者の明確な筆跡)が不足した「少数サンプル問題」への直面等、運用面の課題は未だ残されていた。 そこで本研究では、一般的な筆者依存型モデルを少数サンプル問題に堅牢なユーザ・テキスト共通型モデル(筆者およびテキスト内容に非依存のモデル)に発展させるとともに、前回の研究成果で有効性の確認された筆圧情報の活用、さらに筆者毎の筆跡の個性の導入により、従来よりも性能面・運用面ともに改善を図った。 【研究方法】 本手法の主な流れは以下のとおりである。まず、日常よく用いられるボールペンで書かれた筆跡に着目し、マルチバンドイメージスキャナにより可視画像・赤外画像を一括取得する。次に、2値化した可視画像をマスクとして可視画像・赤外画像の背景を除去し、各画像から字画のみを切り出す。その後、可視画像ではインクの濃淡から筆圧情報の抽出、赤外画像では紙面の凹みの程度に応じて生じる陰影から筆圧情報の抽出を行う。続いて、取得した特徴量を併用し、筆者毎の筆跡の個性を考慮したユーザ・テキスト共通型モデルを構築後、モデルの評価を行う。 【研究成果】 実際に筆跡サンプルを用いて本手法の有効性を評価したところ、可視画像・赤外画像の筆圧情報を併用し、さらに筆者毎の筆跡の個性を考慮したユーザ・テキスト共通型モデルを適用することで、従来よりも性能面運用面ともに有効な成果を得た。
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