Outline of Annual Research Achievements |
徳島市沖洲地区にある人工干潟は, 埋め立てられる既存干潟の代償措置として造成されたが, 既存干潟の貝・カニ類相を再現出来ていなかった. 貝・カニ類個体数密度(特に表在性)が極端に少なく, 決定的な違いはホソウミニナBatillaria cumingiの有無であった. 「ホソウミニナが人工干潟で生息できないのは餌不足のためである」という仮説を検証するために, ホソウミニナの野外飼育実験を行った. しかし, 餌量およびホソウミニナ成長量は干潟間で有意差が確認されず, 仮説は却下された. ところが飼育実験中に, 人工干潟でのみホソウミニナの死亡や過度の消失がみられ, 野外実験によって底質表面の物体が底質へ沈み込んでいること(=「沈み込み現象」)が確認された. この「沈み込み現象」が, 人工干潟におけるホソウミニナの生息を妨げている可能性が示された. 「沈み込み現象」によるホソウミニナヘの影響を確認するために, 底の有無で2種類の実験ケージを作製し, 人工干潟でホソウミニナの飼育実験を行ったところ, 底の無い実験ケージでのみホソウミニナの死亡や高頻度の消失が確認された. また, 人工干潟の底質を用いてホソウミニナの埋設実験を行ったところ, コントロールの系である非埋設の系ではホソウミニナの死亡が確認されなかったに対し, 埋設した系ではホソウミニナの死亡が確認された. これらの結果より, 沖洲地区人工干潟で確認されている「沈み込み現象」は, ホソウミニナの死亡率を上昇させることが示された. この「沈み込み現象」こそが, ホソウミニナが沖洲人工干潟で確認されない理由であろうと考えられた. 今後の課題は, 生物的および物理的などの複合的な観点から, 「沈み込み現象」の発生要因を明らかにしていくことである.
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