Research Abstract |
昭和51年度に実施された第二次環インド洋・東南アジア地域ショウジョウバエ群学術調査(代表者北川修教授都立大)によって採集されたオナジショウショウバエ(キイロショウジョウバエ D.melanogasterの近縁種)のなかにミトコンドリアDNAの異種間浸透とヘテロプラズミーを示す系統がそれぞれ含まれていることを最近お茶の水女子大において明らかにした. 特に,相異なる生物種(オナジショウジョウバエとD.mauritiana)に,それぞれ一般的な二種類のミトコンドリアを一つの細胞質にもつヘテロプラズミーは,從来報告されていなかった現象である,ミトコンドリアは母性遺伝をする. しかし今回見出されたヘテプラズミーは,その父親個体が何かは別としても父性遺伝のあったことを強く示唆しているように思われる. ミトコンドリアの遺伝様式の理解を深めるうえにも,その質性究明は重要であるが広く分子系統学,細胞生物学にとっても興味深い. ところが,このヘテロプラズミーを示すことが分った系統は,レユニオン島由来の2系統のみである. またその特集にともなう生態調査記録は,残されていない. そこで,あらたにより多くの系統を現地調査から得,またその生息状態,共存種の内訳などの記録をとり,この事実に関する研究を確固たるものとしたい. 本学術調査は,レユニオン島とその近隣の二国(モーリシャス,セーシェル)において多数のオナジショウジョウバエとその近縁種を採集,生態調査を行い,ミトコンドリア分析に必要な生存標品を研究室に持ちかえり,系統化することを目的とする. 1987・7・8〜1987・8・1の期間,南インド洋のレユニオン,モーリシャス,セーシェルに各々約1週間ずつ滞在した. これら3島において採集できたキイロショウジョウバエとその近縁3種の個体数を以下に示す. D.melanogasterは,レユニオン44,モーリシャス34,セーシェル6.このうち,最も新しい報告(Tsacas et al,1981)では,モーリシャス,セーシェルにおけるこの種の記載はない. D.simulausが,採集できたのはレユニオンのみであった. 一方,D.mauritianaは,モーリシャス固有種で他の2島において採集できなかった. D.Sechelliaは,セーシェル固有種でやはり他の島(国)には見出せなかった. 今回の採集期間は限られ,南半球の低温・乾燥期にあたっていたことを考えると,各調査地域の新しい種構成をここで断定するのは早い. しかし,人家性のキイロショウジョウバエが全世界に分布を広めているが,モーリシャスやセーシェルにも侵入が始まったことが新しく明した. モーリシャス固有種であるD.mauritianaの生息域は,サトウキビ畑が主であったので,この固有種の生存に著しい影響を与えることはないだろう. もっとも民家周辺からもこの種を採集できたので今後,キイロショウジョエバエとの関係を注目してゆく必要がある. D.sechelliaは,ヤエヤマアオキの落果のみで採集が出来た. この植物への依存は度は極めて高いようで,トラップによる観密実験を行ったところ,周辺に多数のショウジョウバエが飛しょうしているにもかかわらず,D.sechelliaのみ集まって来て,隣接の他の果実トラップには入らなかった. ヘテロプラズミーと関連して興味のあったD.simulausとD.mauritianaの同所性生息状態は,大規模な採集調査をしてもやはり確認できなかった. (表1参照) ミトコンドリアを主としてDNAの解析に供するために,生きた標本個体を4種計約200研究室にて系統化することが出来た. ヘテロプラズミーのその後の実情を明らかに出来るものと期待している. 乾燥標本から新〓らしい標本を何例か見出している. 現在,資料製理と共に,確認をいそいでいる. まとめて,報告の機会を持ちたい.
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