Research Abstract |
南米大陸における隠花植物の調査研究は, ほとんど行われておらず, その植物地理学的解析の一つの大きな障害ともなっている. 一方で, 特にアンデス山地には東亜との関連の深い高等植物が多く見いだされてきている. 本調査では, このような東亜との関連性の深い隠花植物がアンデス山地の中〜南部で, いかに分化発達しているかを調査し, 東亜の隠花植物相との関連性を考究することを目的とする. 陸上隠花植物の起源を中生代のゴンドワナ大陸に求める考えかたがあるが, 本調査によって, ゴンドワナ大陸から南米インデス山地を北上した隠花植物群と, ゴンドワナ大陸→ニューギニア→東亜へと北上した群との関連性を追求でき, 陸上植物の進化並びに分化についての成果が期待できる. 昭和62年度の現地調査はチリ国のバルディビア地区及びコンセプシオン地区で主としておこなったが, この地域はNothofagus obliqua, N.dombeiを主とした中湿性林である. これと共に, ナフエルブータ山地及びプジェウエ山地では, Araucaria林の調査をおこなった. これらの森林内にみられる蘚類並びに苔類には, 南部のパタゴニア地域(第一次調査で調査済)でみられたゴンドワナ起源と目される多くの群が発見できた. 例えばSchistochila subgen.Protoschistochila, Monoclea forsteri, Roivaineniaその他である. 一方で, アンデス高地(約2000m以上)の地では北部アンデスで分化したと考えられるような, 例えばHaplomitrium andinumなどが南限となっている. 特異な点は, ゴンドワナ起源と目されるものの中でSchistochilaceae, Leptoscyphus, Nothostreptaその他が, パタゴニア地域からバルディビア〜コンセプシオン地区に北上するにしたがって極度に少なく, ペルー南部(第二次調査地)では全く欠如していることである. イクビゴケ科のMuscoflorschuetziaが今回の調査で収集されたが, これは北半球のイクビゴケ科との関連性を追求するための貴重な資料となる. 苔類Monoclea forsteriは低山帯に発見されたが, アンデス中〜北部で分化するMonoclea gottscheiとは細胞学的にはっきり分化した種であることが明らかになり, ゴンドワナ起源の群の分化パターンを裏付ける重要な例となる. 収集された菌類のうち, Nothofagusに寄生するCyttariaは2種類確認された. これはパタゴニア地域の種類数と著しく異なった数で, ゴンドワナ起源とされているNothofagusの分化分布と, このCyttaria菌との関連を示すものである. 収集された約7700点の資料につき, 昭和63年度には更に詳細な分類学的解析をおこなうが, これにより一層明確な成果を得られるものと期待する.
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