Research Abstract |
1.未知の状態であるタイ国の小蛾類について重点的に調査研究を行ない,東南アジアの小蛾相の研究に貢献する. 2.タイ国北部に分布している照葉樹林帯の鱗翅目昆虫を調べ,我が国の要素との種・属レベルでのかかわりを調べる. 3.タイ国の多くの要素は東洋熱帯系であり,インドとの共通度は高く,多くの記載や記録がなされているインドの鱗翅目昆虫との比較を行なう. 4.幼虫を採集,飼育することにより,寄生植物が判明した資料は,タイ国の自然生態系の研究に貢献する. タイ国の鱗翅目昆虫相は,東南アジアのなかで最も未知の状態にある. 本年度の現地調査は,雨季の8ー9月になされたが,得た資料は現在標本作製,整理中であり,これらの作業の完了後に本格的な研究が進められ,成果が印刷,公表される運びとなるので,現状では実績は詳らかではない. 各調査地(添付図参照)では,これまでの調査時とは採品の構成にかなりの差異が認められた.また,時季的な差を知るため,タイ中央部の広大な自然公園カオヤイで8月上旬と9月下旬の2回の調査を行なった.現在検討中であるが,両者の構成メンバーにはかなりの差があり,熱帯自然林における発生の変移を知り得た. タイ国第一の高山,ドイインターノン(海抜2571m,チエンマイ県)の頂上地域の鱗翅目相は,東洋区系よりむしろ旧北区系の要素を示すことが,前回までの調査に加えて一層明らかになった.しかし,その山腹地帯(1300m前後)では,明らかに東洋区,とくにインド,ビルマとの強い共通を示し,研究の進展により一層明らかとなろう.この違いは,第一に植生によるものであろう. これまでタイ国から未知であったグループ,例えばハマキモドキガ科のBrenthiaとその近縁属,マルハキバガ科のPeriacmaと近縁属は,前回までの調査により,前者は24新種,後者は22新種と3未記録種をタイ国から記録したが,今回もなお多くの追加種を見出した. 時季を変えた調査を行なえば,更に多くの種が追加され,系統,東南アジアでの分布の位置付けも明らかにできよう. タイ国の鱗翅目相,とりわけ系統学上重要な原始的なグループを含む小蛾類については,かなりの概観を知り得た.しかし,昆虫の発生は年間を通じて始めて実態が明かされるものであり,これまで未調査である乾季(12ー4月)の現地学術調査の実施が,鱗翅目相の解明に必要である.
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