Research Abstract |
砂漠化の問題は今や全地球的規模で取り組むべきものと認識されている. 国内に砂漠が存在しないわが国での砂漠研究は専ら海外調査を通じて, 比較的限定された技術段階の研究にとどまり, 学術的な立場からする「砂漠化」への全体的対応に資するものは殆どないのが実情である. 従って, わが国の研究者が全地球的な砂漠化現象の防止に今後積極的に寄与するには,早急に現地の人々と協力体制を築き,基礎的かつ総合的にこの問題の調査研究に取り組む必要がある. 本研究は中国科学院研究者の協力のもとに中国・黄土高原において深刻化しつつある「砂漠化」過程の把握と植生の回復を中心的課題に取り上げ, 当地の砂漠化防止を最終目標として研究するものである. 〔本調査候補地の選定〕黄土高原東部の大行山脈,西部の固原県,西北部の銀川市を現地視察した. 3地域と比較した結果, 黄土高原として最も典型的であり, かつ中国科学院西北水土保持研究所の現地試験地があって, 調査研究に協力をえやすい固原県を昭和63年度の本調査の候補地として選定した. 〔固原県の概況〕県は北緯34度に位置し, 総面積3780km^2,黄土が厚く堆積した丘陵からなり, 河川(降雨期のみ流水あり)による開析が進んで,複雑な地形を呈している. 標高1300〜3000m年平均気温4〜7℃と低い, 年降水量は350〜500mmと少ないが,その60%が7〜9月に集中豪雨的に降るため, 年土壌流亡量は2000〜7300t/km^2に達する. 植物の生育期間は4〜9月の半年間であり, 無霜期間は130日前後と短い, 農用地は総面積の90%を占め,内訳は草地42%,耕地37%,林地21%であるが,草地・林地とも植生は貧弱で,耕地は傾斜地の割合が高い. この地域は歴史上, 古い時代には緑に覆われた遊牧地であったが,明代中葉以降, とくに清末から人口増と開墾が進み, 自然植生の破壊が急速に激化して現在に至っている. 〔調査研究の方向〕短期間の予備調査の結果ではあるが, 凡そ次の方向が考えられる. 1)地理学, 気象学, 土壌学的見地から, 土壌侵食の起る機構を明らかにし, 対応策を検討する. 2)耕地化による草地の縮小と,過放牧の連続で草地は草種数,草量ともに極めて貧弱で, 土壌侵食を受け易い. 外来草種の導入,適正放牧頭数の厳守による植生の回復を検討する. 3)傾斜地等の不適地の耕地化により, 穀物収量は500kg/haと著しく低く,耕地の土壌侵食も激しい. 不適地を草地に戻し, 耕地は平坦な水利条件のよい所に縮小し,品種・栽培法・輪作体系・土壌肥沃度増進等,収量, 増加の可能性を検討する.
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