Research Abstract |
昭和60年と61年の現地調査では, 主としてSouthern Cook groupのMangaia島とRarotonga島の住民に関する資料を収集した. 収集資料は, 少なくとも40体分の人骨計測・観察資料, 約400人分の歯型石膏模型, 約100人分の生体計測・観察資料, 約300人分の血液資料, 約350人分の皮膚理紋プリント, 25巻の録音テープとノート20册分の語彙・言語状況資料のほか, 人口学的・疫学的資料を含んでいる. これらのうちの人骨資料の多くは, 今回の調査によって新たに発見された人骨のものである. 資料は各分担者によって整理・分析された. まず, 人口学的資料の分析により, Cook諸島集団, とくにMangaia, Pukapuka集団は, Polynesia人集団としては, 白人との接触による混血や人口減少が比較的軽度に留まっており, Polynesia人本来の特徴を探る上で重要な研究対象であることが確かめられた. 一方, 歯や, 血液, 指紋の分析により, Cook諸島内においても, 各島間で住民の身体的特徴に多少の差異があることが示された. また, これらの資料および人骨資料による他の集団との比較では, Cook諸島人の身体的特徴は東Polynesia地域ではやや特異で, Polynesia人の共通祖先の特徴を比較的よく残している可能性があることが示された. これらの結果はPolynesiaにおける移住史の研究上新しい重要な知見である. 言語学の分野では, 収集資料が語彙集の形に整理された. 語彙の比較やその他の言語状況の分析から, 過去における島間の交流状態に関する知見が得られた. また, 住民のB型肝炎感染状況や, 歯科疾患の状態に関する統計など, 現地の医療行政に役立つ分析結果も得られている. これらの成果は, 英文の報告書(People of the Cook lslandsーーPsat and Presant)としてまとめて出版し, 日本国内・外の研究機関や現地の関係諸機関などに配布した. 各分野におけるさらに詳細な分析と, それらの結果の比較検討による諸島内およびPolynesia全域における移住史の解明は今後の課題であるが, Southern Cook groupにおける基礎資料の収集とそれを整理分析して得られた成果の英文による出版という本調査研究の当面の目標を果たすことができた.
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