Research Abstract |
本研究の目的は, 「束縛経路理論」という新しい言語理論を開発し, それを様々な統語現象に適用し, 更に, 言語機械処理理論への応用の可能性を探ることにある. 束縛経路理論は, 統語構造に現れる"依存要素(dependent element)"とその"先行詞(antecedent)"との間に「束縛経路(binding path)」を設定し, 依存関係の「合法性」を束縛経路に関する諸原理に基づいて説明しようとするものである. 束縛経路理論の特色は, 文法の諸原理を「束縛経路」という共通の媒介の上に載せて, それらを有機的に統合しようとする点にある. そうすることによって, 諸原理の相互関係や連繋の仕方が明確になり, 原理間の余剰性を排除することが可能となる. また, 束縛経路及び諸原理はいずれも, Xバー理論の単純明快な概念に基づいて定義され, それらの原理は一様に束縛経路という「表示」に対して適用される. こうしたアプローチを採ることによって, 今日の生成理論(GB理論)にみられるさまざまな概念上の難点が克服できる. 本年度は, 「束縛経路理論」の基礎を整備・確立することが, 最大の課題であった. そのために, まず, 同理論の中心である「束縛経路」を厳密に定義し, 同時に「依存関係」を結ぶ要素を確定することに研究の主眼を置いた. 依存関係を結ぶ要素として, 従来よく研究が行われている移動要素とその痕跡という関係のほかに, 寄生空範疇とその先行詞, 照応表現とその先行詞などをも含める方向で検討を進めてきた. 「束縛経路」の定義も, 当然, それに対応できるように一般化することに努めてきた. その結果, 本年度発表した一連の論文では, 補部のwh移動, 非補部のwh移動, 名詞句移動を始めとし, 照応表現, 寄生空範疇などの依存関係についても取り上げ, 多くの成果を収めることができた. 特に, 寄生空範疇に関しては, 従来の同種の研究にみられたさまざまな不備を克服できる方策を束縛経路理論の観点から提案することができた. 発表した研究論文のうち2編は, 海外の国際的な専門誌(The Linguistic Review)に受理された.
|