Research Abstract |
植物細胞としては, 増殖の最も早いタバコ培養細胞BY2株を用いて, 色素体のDNA合成および分裂を細胞核のDNA合成および分裂との関係を明らかにし, 核と細胞質の相互作用の動態解明を目的として研究を行なった. 一週間周期で継代されているBY2を, 一定の間隔でサンプリングし, DNAを特異的に染色する蛍光色素DAPIで染め, 蛍光顕微鏡で観察し, 定量化は高感度顕微測光装置VIMシステムで行なったところ, 色素体核様体のDNA量は, 植え継ぎ直後から急激に増大するが, 28時間目をピークとして後は低下の一方であった. オートラジオグラフィーは, 色素体DNA合成が最初の日に集中することを示していた. これに対し, 細胞核のDNA合成は, 色素体DNA合成に遅れて起こったが, 6日目まで継続し, 分裂も6日目まで観察された. このことは, 色素体のDNA合成と細胞核のDNA合成は, 相互に独立であることを示している. その結果, BY2細胞では, 細胞当りの色素体DNA合成は, 1日の培養で十倍以上になるが, 培養とともに娘細胞に分配される一方で, 静止相には元の値となる. このことは, 色素体と細胞核の相互作用を探る上で極めて興味ある実験系を提供しているとともに, 細胞の大量培養が容易であることから分子レベルの解析に好適であることを示している. なお, 同時に従来の細胞当りの色素体DNAのコピー数の算出の研究が全て再検討を要することも示された. また, 色素体は, 培養とともにアミロプラストを経て, 白色体にもなるので色素体の形態研究にも適していることも示された. 一方, 新鮮な培地に移して, 直ちに認められるこの急激な色素体DNA合成の主要な制限要因がリン酸であることも示されので, 培地成分による色素体DNA合成の制御という興味あるテーマも提供している.
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