Research Abstract |
ヘモグロビン(Hb)のアロステリック機能調節の分子論的機序を明らかにする目的で, 大腸菌・M13ファージ系を用いた部位指定変異導入技術によって, 特定のアミノ酸残基を置換したヒトの人工変異Hbを調製し, それらの構造と機能の解析を行なった. 今回は, β鎖ヘムの遠位側のアミノ酸を置換した変異体, および, ワニHbの機能を模疑する変異体を合成した. 変異グロビンの合成は, Nagaiらの発現ベクターを用いて, 大腸菌株QY13内で行なった. 得られたβグロビンにヘミンと正常単離α鎖を加え, 四量体Hbを再構成した. 1.ヘム遠位側アミノ酸置換体:Val-67βをAla, Leu, IleまたはMetに置換した変異体およびHis-58βをGln, ValまたはGlyに置換した変異体を合成し, それらの酸素平衡曲線, 共鳴ラマンスペクトルの測定および, X線結晶解析を行なった. T構造Hbの酸素親和性の指標である第一Adair定数K_1の値を, 天然ヒトHbのK_1と比較すると, HbAla-67βでは増加, HbLeu-67βでは不変, HbIle-β67では減少した. また, 58β部位を, HisやGlnなどの極性残基が占めると, K_1が上昇した. これらの事実から, β67部位アミノ酸残基によるリガンドヘの立体障害および58β部位アミノ酸残基の極性が, Hbのリガンド親和性を調節する重要な因子であると結論した. 2.ワニHbを模疑するHb:ワニHbの酸素親和性は, 血中CO_2分圧に強く応答するが, それは, そのデオキシ型がHCO^-_3と強く結合するためである. HCO^-_3の結合部位を構成するアミノ酸をヒトのHbに導入した変異体を合成して, それらのCO_2の効果を測定したところ, 期待に反して, その効果の増強はみられなかった.
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