Research Abstract |
(研究の目的):多細胞の集合で構成されている生物個体では, 個々の細胞同士が密なる連絡をとりながら個体の恒常性を保持している. 本研究は, 癌細胞の生物学的性格におよぼす細胞間連絡の影響を検討することにより, 細胞間連絡の本態を明らかにすることを目的とした. (研究の方法・成績):細胞間連絡は蛍光色素Lucifer yellow CHを細胞内にマクロインジェクトし隣接する周囲細胞への色素移行を蛍光顕微鏡下で観察した. この方法は, 細胞間連絡のうちギャップ結合を通じて低分子量の細胞内分子の相互移行を検索するものである. ラット乳癌SSTー2からクローニングによる得た高転移クローン(C1ー2など)と低転移クローン(C1ー4など)の培養線維芽細胞との細胞間連絡能は明らかな差があり, 高転移クローンは低く, 低転移クローンは高かった. このことは電顕により観察されるギャップ結合の頻度が低転移クローンで高いことと符合した. また, 低転移クローンでも肺転移巣からの癌細胞は細胞間連絡は低かった. 以上より周囲の正常線維芽細胞と細胞間連絡を密にとる癌細胞の転移能は低いと推定された. この細胞間連絡が癌細胞の生物学的性格に与える影響として, 各クローンの運動能をBoyden chamberを用いたNucleporeフィルター通過性により検索した. その結果, 両クローンとも同等の運動能を有していたが, 線維芽細胞と混合培養によって細胞間連絡の密な低転移クローンの運動能は著しく低下したが, 高転移クローンのそれは影響され難かった. (考察および反省):細胞間連絡は細胞の癌化に伴なって失われてくることが知られているが, 本研究の成績は癌細胞でも周囲の正常細胞と密なる細胞間連絡を有しているものがあり, それによって癌細胞の転移形質のひとつである運動能が抑制されうることを示した. 今後ギャップ結合を介して移行する転移能抑制因子の解明をしていくことが必要である.
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