Research Abstract |
本研究は, 昭和61年度科研(一般研究C)「フレーベルのシンボル概念とその〈遊具論〉への展開」の成果を基礎に, フレーベルの家庭育児書『母の歌と愛撫の歌』(Mutter=und Koselieder, 1844 以下『母の歌』と略記する)を歌詩・絵画の両面からシンボル概念の具体的展開として論究したものである. 〔研究成果〕:本研究から得られた主要な知見を要約すれば, 以下の通りである. 〈前提〉;フレーベルの「シンボル」概念は, 多様にみられるので, 一義的に規定することは困難であるが, 基本的に, 「象徴的なもの」をキリスト教信仰との関連において捉えている. 従って, 『母の歌』の挿絵もこの観点から考察されねばならない. その論拠としては, 1.挿絵の成作者, F・ウンゲル(1811〜1858)は, フレーベルの下で勉学し, その後, ミュンヘンの王室美術学校で, P・コルネリウス(1783〜1867, ナザレ派)の教えを受けたが, むしろその画風は, O・ルンゲ(1777〜1810), K・フリードッヒ(1774〜1840)のロマン主義的プロテスタント的傾向が強い. 例えば, ルンゲの作品「一日の四つ時」(Vier Zeitem, 1805)の構図がウンゲルの『母の歌』の挿絵の基本モチーフを形成していることからもうかがえる. 2.『母の歌』を他の類書, とりわけ, 『グリム童話』と比較考察すると, その特徴として, 以下の点が明らかとなった. (1)『母の歌』は, 挿絵, 歌詩と母親への指示内容とが密接に結合し, その意図が親と子の関係を成立させる原理, 教育の目的, 方法, 内容を含むものとして構成されているのに対して, 『グリム童話』は, 民話を中心にして作られたもので, その根本的意図において相違している. それが逆に『童話』の普及に連がっている.
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