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¥1,400,000 (Direct Cost: ¥1,400,000)
Fiscal Year 1987: ¥1,400,000 (Direct Cost: ¥1,400,000)
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Research Abstract |
中世ヨーロッパのキリスト教は, 唯一神信仰であるといえ, 実態から見れば多信心的である. それは人間の祈りを神にとりついでくれる存在として聖人たちを想定し, 彼らを, ある程度専門化された利益(りやく)の給付者と見ないしていたからである. 聖人と殉教者および証聖者から成るとされるが, 実際には正確な縁起不明の多くの聖人が存在する. このような聖人信仰は3, 4世紀ごろから観察され, カトリック信仰の拡大とともに西欧に波及していった. 現在残存している聖者伝の数量からいって, 聖者崇拝は中世後期の都市においてもきわめて活発であったことが知られる. 都市民の信仰心に大きな影響力を持っていた托鉢修道会はこうした聖者崇拝を積極的に利用していた. また俗人大衆も, それ以前の時代に比べて, より能動的に聖者崇拝の発展に関与していた. このことが兄弟団と都市宗教劇の検討から明らかとなる. 兄弟団は世俗的連帯を基礎としつつ, 宗教活動を通じて精神的連帯を強化する組織であるが, その宗教対象としては, イエスやマリアの聖史のエピソードと並んで, 多数の聖人が選ばれている. 特定の聖人とその利益(りやく)に対する信仰が, 構成員を結合していたのである. また宗教激の素材として, 聖人の生涯がしばしばとりあげられている. もちろん上演団体の性格と, 主人公である聖人は密接に関係していた. たとえば兄弟団や職業団体がその守護聖人の劇を上演する場合である. これは上演を通じて, その団体の威信を発揚するという意味を持っていた. さらに都市の守護聖人の劇は, 都市民全体の自覚と団結を高める効果を持っていたのである. このように聖者崇拝は, 中世高貴の都市社会において, 人びとの連帯の核として重要な意味を持ちつつ, 俗人たちをカトリック信仰に統合する手段として機能していたといえよう.
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