Research Abstract |
本研究は, 漢籍・仏典や漢文体の国書の原典本文の上下欄外や行間に片仮名交り体の注が書き入れられた資料(これを書き入れ仮名抄と呼ぶ)を現地調査し, その目録を作成して, 中世日本語研究資料として利用するための基礎をかためようとしたものである. 1.調査 未調査の書き入れ仮名抄を, 東京・京都・天理などの図書館に現地調査し, 『舒州投子山妙続大師語録』江戸前期写本書き入れ(内閣文庫)『少室六門』江戸前期写本書き入れ(阪大)・『江湖風月集全集』五山版書き入れ(天理大)などをはじめとして, 約50点の資料を発掘しえた. これを既調査分(約300点)と合わせて, 目録を作成することができた. 2.整備 (1)書き入れ仮名抄には, オリジナルなものと, 既存の仮名抄からの抜き書きと, その両面をもつものとがあるが, 伝存する量は後二者が多い. (2)オリジナルなものは, 成書としての仮名抄の成立を解明するのに役立つほか, 抄物作成活動の広がりを明らかにするのに役立つ. 『千字文』『隆興釈教編年通論』『嘉泰普燈録』『御註大方円覚修多羅了義経』『般若心経秘鍵』『扣門瓦子』『大易要事記』『金句抄』『類編暦法通書大全』『察証弁治啓迪集』『城西聯句』などへの書き入れが見られ, その広がりの予想外に広いことが明らかとなった. (3)書き入れ仮名抄にはよそ行きではない言語事象が露呈していることがある. 書き入れは断片的であるから, 文法事象の研究にはあまり有効ではないが, 音韻・表記・語詞に関する興味深い事象を集めることができた. 特に語詞研究資料として最も有効であって, 他資料からは得られないような用例も集めることができた.
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