Research Abstract |
本研究は, この実施期間に新たな展開をみたソ連におけるペレストロイカ及び東中欧社会主義諸国おける改革と危機状況の現出によって, 生きた素材を与えられつつ進行することになった. 十月革命七十周年に際してのゴルバチョフ報告とその後のブハーリン復権や協同組合法草案の発表が明示しているように, 主として1930年代に成立をみたソビエト型政治社会及びスターリン主義法思想は, いま激しい動揺に見舞われつつある. 本研究の目的に記した「現代社会主義法の思想的起源及び構造的基盤」は, 現体制の内包する諸矛盾との緊張した対応の下に, その正統性と現実性を急速に喪失する方向にある. これと関連して本研究が求めた社会主義法思想におけるスターリン批判の諸契機として, 第一にスターリン体制の歴史的総括, 第二に七月革命と1920年代法思想の再評価, 第三に東中欧諸国における独自の法思想の再検討, そして第四にブルジョア法思想自体の再審が進行しつつあることを確認できる. 『コミュニスト』誌(ソ連共産党)にG.ルカーチの『レーニン論』(1924年)がロシア語初訳として登場したことは, きわめて衝撃的であると共に叙上の観点からするならば, 充分ありうべきことと評される. 従ってポーランド連帯事件はともかく, プラハの春やハンガリー事件等が, 今後再審にふされることが予測され, 本研究の試みた分析がその際のベースとなることを確信している. 本研究は, ロシア語, ハンガリー語等による第一次資料の収集, 分析を基礎として, その視野は中国法, モンゴル法にも及んだ. 欧米圏及びわが国の最新の研究成果も充分吸収し, また諸領域(法, 経済, 思想, 歴史)の内外の専門家各位には, 直接その知見を問う機会を得たことも成果として特筆されよう. 総じて現状, 歴史, 思想の諸レヴェルで研究目的を達成し, 今後の展開の基礎を築き得たことを記す.
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