Research Abstract |
(1)慣習法理論が重要性をもつようになったのは, それがすべての国を拘束する一般国際法を説明するための理論になった19世紀においてである. それまで, そうした理論は自然法理論であった. しかし, 自然法理論の妥当性が失われると共に, 欧米諸国の実行と考えに基づいた国際法を「非ヨーロッパ的」世界においても適用する必要が生じたため, 一般国際法を説明するための新しい理論として慣習法理論が確立した. この意味で同理論は, 基本的には, 欧米諸国を中心にして形成された国際法の普遍的適用を維持していくという歴史的な性格をもっていたと考えられる. (2)慣習法理論の性格は, 現在大きくかわりつつある. 例えば, この理論の核心をなす「法的信念」は, 従来は大国の意思を普遍的意思に擬制する役割を果たしたが, 現在では逆に, 国際社会の多数派となった中小国の意思を普遍的意思に高める役割を果そうとしている. 1970年以降の国際利例, 特に国連総会決議に諸国の「法的信念」が示されることを認めた1986年のニカラグア事件判決からも, そうした方向性をうかがうことができる. (3)慣習法なる概念が消滅しない限り, 慣習法の認定問題は重要な争点になりつづけるが, その場合, 伝統的に問題とされた慣行の存否よりも, 法を定立しようとする国家意思を検証することが重視される傾向にある. これは, 検証の手段の発達とその機械の増大, また何よりも, 国際社会の構造変化とそれに伴う国際法定立過程の変容に起因していると考えられる. 以上の諸点は今年度の研究を通じて得られた知見であるが, 上記の研究課題は単年度で達成しうる性格のものではないので, 今年度の成果を最大限に生かしつつ, ひきつづき探求を行い, 数年後に研究の完成を期す所存である.
|