Research Abstract |
1 今回入手した西日本の公共工事用の実施約款70につき, 昭和56年改正の公共工事標準請負契約約款の各条項毎に比較検討し, その完全実施率を算定した. なお, 70の内訳は, 国公団関係27, 地方公共団体43(近畿13, 中国7, 四国8, 九州15)である. 2 ところで, 従来, 標準約款中の重要条項が発注者たる公共団体の利益のため一方的に取捨変更され, この傾向は都道府県等の地方公共団体に多くみられ, その結果, 条件変更条項, 第三者損害条項, 不可抗力条項の完全実施率は, それぞれ15%, 20%, 16%程度にすぎない(市町村は当該府県の実施約款をそのまま鵜呑みして自己の約款として採用している), と指摘されていた(中村絹次郎, 法律時報1971年10月号75頁). 3 今回の比較検討の結果, (1)条件変更条項, 第三者損害条項, 不可抗力条項の完全実施率は, それぞれ63%, 61%, 56%と1971年当時よりもかなり高くなっているが, (2)部分払条項, 検査引渡条項, 前金条項のそれは, それぞれ21%, 29%, 33%と依然低いこと, (3)紛争解決条項の実施率は80%と高いが, 公共工事につき建設紛争審査会に係属の事件は皆無に近いことなどにみられるように, 実施約款の第一次規範に対し, 不文の発注者の意思といった第二次規範が存在し, 二重の契約規範が現在なお妥当しているとみられること, (4)ある公共団体の中には, 部や局を異にするごとに建前の異った約款が依然存在し, 内容的に検討してみても大差ないことから, その存在理由に乏しいこと, (5)府県の実施約款は標準約款の内容に従う傾向が高まりつつあるといえるが, 市等の実施約款にはなお独自約款を採用するものが多いこと, (6)工事規模により別約款を使用する公共団体が少しあること, が判明した. 4 東日本の実施約款の入手に今後努力すると同時に, 第二次規範の実情につき関係者より聴取したいと思っている.
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