Research Abstract |
本研究は, 課題名の示すように, 昭和58年度の研究「積極行政の担保の為の刑事制裁使用の限界」を, 研究代表者が〓後2年に亘る米国留学で得た新たな知見及び1980年西独環境犯罪取締法の施行後の議論の展開を踏まえて, 補完することを当面の目的とし, 最終的には, 条例罰則をも含む我国刑事実体法全体の現状に引き付けて, 刑事制裁の発動に関する一般的原理論への展開の端緒を得ることを目的とした. この最終目的は, 明確な形で提示し得るレヴェルには達成されなかったが, それは, 性格上, 個別研究よりも将来に予定される体系論中での展開に期待さるべきものであり, むしろ, 当面の目的達成の過程で得られた成果が, 研究代表者並びに学界の今後にとって有する意義において適切に評価されることを期待する. 交付申請書研究実施計画欄記載の(1)に関しては, 米国環境法の立法及び施行過程の分析を中心に行った. 所謂テクノロジー・フォーシィングの刑事法的担保が形成的機能を有することが注目される. その理論的正統化は米国でもなお課題である. (2)の西独環境犯罪取締法の実証的・理論的研究の検討からは, 環境刑法の独立性の選択が大規模汚染を捕捉し得ないという結果を生み, 行政従属性を基本に据えようとする傾向が看取されるが, 議論の枠組み自体に問題があり, 新たに学ぶところは少ない. むしろ, 組織体の責任, 管轄公務員の不作為責任等の議論から, 新たな犯罪論体系構成上の視点が得られることに注目したい. (3)の米国環境法を支える新たな法方法論・基礎理論は, 執行手段としての刑事制裁の発動を考える上で, 貴重な視座を提供する. (5)の我国現行法制の研究では, 特に条例罰則, 就中, 横出し・上乗せ環境規制の刑事法的執行と他法令との不均衡という問題点を明らかにし得た. (3)(5)については, 既に研究発表として, 原稿の一部または全部を出版社に送付済みである. 今後は, (1)(2)の分析の纏め・公表を急ぎたい.
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