Research Abstract |
地方民権左派の知識人植木枝盛は, 多作で影響が大きく, 自伝的資料にも富むにもかかわらず, 家永・外崎のそれの外見るべき研究が乏しく, 両者の研究においても, 思想形成の実証的解明は手うすである. 〔計画の実施〕(イ)植木は, 備忘録, 日記, 購求書・閲読書・演説の記録, 自伝など自伝的資料を多く残したが, それらはほとんど手稿の写本の形で伝えられて来, その結果記入の不備・誤記・誤写が多い. (ロ)また彼の公刊著作には引用が多いが, 出典はほとんど示されない. 本研究は, (イ)(ロ)の個々の調査の上, そられと植木旧蔵書とを綜合的に対照検討し, さらに各種書誌文献を参照して, 植木が読んだ書物を同定した. 〔得られた知見〕1.明示4・5年までは四書五経, その後同8年頃までは西洋の訳書がほとんどを占める. その後は明示10・11年にかけてキリスト教書の比重が高いほかは, 漢籍・仏教書・近世以前の和書の比重が翻訳西洋書を圧倒する. 2.中でも朱子より先の初期宋学・明初の朱子学, 陸・陽, および禅をはじめとする仏教書, 日本の書物では石門心学と『誌四録』の比重が高いことは注目に値いする. 3.植木はこれら和漢の書物に拠って, 西洋近代思想を摂取しつつもこれへの対抗として思想的自己形成を行なった, といえよう. その焦点は(1)「心学」と自称する主観性・内面性の強調と肥大・無規範化と欲望の直接的肯定であり, これが彼の政治社会論における自由論を基礎づけ特徴づける. (2)また, 西洋からの政治・社会思想の流入に対抗して, 和・漢・仏教の典籍に依拠して, 功利主義・民主主義・政治官吏道具観などは, 中国・日本に国有のものであるという思想が築かれた.
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