Research Abstract |
Cythereの属は北回帰線以北に分布圏をもつ浅海性の底生介形虫である. 従来の研究では, ヨーロッパで1種, 日本近海で4種, 千島列島で4種, カリフォルニア沿岸で6種が確認されている. 本研究は全世界の本属の化石および現生標本の徹底した収集を行うと共に, これまでの研究を総括して, 本属に17種が含まれることを明らかにした. 分類の基準として, 遺伝的に保存性の高い形質の1つである殻表面に開口するsieve-type normal pore canalsの分布形式を重要視して種の分類を行った. また, 現生種については, soft part(生物体), 特に雄の生殖器官の形態の比較により, これらの種分類の信頼性を確認した. この研究によって, 本属は北大西洋沿岸地域に2種(C.Lutea,C.cronini n.sp.), 北太平洋東部地域に4種(C.alveolivalva,C.maia,C.sp.,C.valentinei n.sp.), 日本列島を含む北太平洋西部沿岸地域には絶滅種3種(C.kamikoaniensis n.sp.,C.nopporoensis n.sp.,C.hanaii n.sp.)の他8種(C.nishinipponica,C.uranipponica,C.golikovi,C.sanrikuensis n.sp.,C.schornikovi,C.boreokurila,C.urapensis,C.omotenipponica)が産出することが判明した. これらのうち6種の新種を提唱, 発表した. これらの種の多様度は, 日本列島地域で最も高く, また化石記録は日本では, 初期中新世まで溯れるのに対して, ヨーロッパおよび北米東部では中期更新世以降, 北米西部では, 中期鮮新世以降に産出する. これらの知見を背景として, 本属の各種間の近縁性を考察し, 5つの種グループを認めた. 今後の研究はこれらの各グループ毎に詳しい近縁関係を考察して, Cythere属の種分化および進化系統を更に詳しく, 具体的に追跡できる. また, この属と関連する他の種グループについても同様の解析が可能になった.
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