Research Abstract |
ホウ酸リチウム(Li_2B_4O_7)は有効原子番号が7.3であり, 人体組織の値と近いため, 熱蛍光(TL)あるいは熱刺激電子放射(TSEE)現象を利用して放射線量を測定するのに適している. 問題点は, この材料の結晶が正方晶系(4mm)に属しており, 圧電体であることから, 微結晶の集合体であるセラミックスでも, 単に-100°C附近以下に冷却するだけで, 放射線照射とは無関係にTSEEを生じることである. 本研究では, この効果を抑制する目的で, Li_2B_4O_7とLiclとの混合物から焼結によりセラミック材料を作成した. 結果はLiclの比率が増加するに伴い, 放射線と無関係なTSEEが急激に減少しており, Li_2B_4O_7対Liclのモル比が2対1の場合には, 主なTSEEピークの強度比が1/4000程度となることを確認した. しかしながらこの材料でも放射線照射に対しては, 良好なTLおよびTSEEの応答が観測されるので, 実用に適している. たゞし, 有効原子番号の増大という欠点が伴っている. なお, Li_2B_4O_7対Liclのモル比が5対1程度になると, ガラス体を生じるが, この場合には-100°C附近以下に冷却しても殆んどTSEEを生じない. したがって, 冷却によるTSEEはLi_2B_4O_7結晶が圧電性を持つことによるとした当初の推測の妥当性が立証されたと考えている. なお, ガラス体では放射線照射によるTLおよびTSEEの感度は低く, 計測材料としては適していない. 予め-100°C以下に冷却する処置を加えていない場合でも, セラミックス体は, 放射線照射によらない微弱なTSEEピークを160°C附近に生じる. しかしながら, 室温でX線照射を行った場合のTSEE強度は, 1000R程度の照射で, 非照射の場合の10,000倍を超えると共に, 270°C附近にもTSEEピークを生じるので, 放射線量計測に利用できる. なお, -50°C附近のTSEEピークはTLピークと対応しているが, 他のピークは対応していない.
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