Research Abstract |
筆者は, 一連の研究を通じて, 非線形電気回路網に生じる諸現象は, 見かけ上複雑, 多岐にわたるが, 一方, この複雑さの中にある種の組織性, 階層性が存在することに注目してきた. このような考察から, 系のダイナミックスを定める物理量として, 先に「平均ポテンシャル」の概念を提案した. 本年度の研究では, さらに, 次の諸点が明らかとなった. 1.平均ポテンシャルは, 従来知られている「最小仕事の原理」と関連するものである. 従って, 線形のL, Cに蓄えられるエネルギーに比べ, 系の損失(非線形抵抗)が小さな系(弱非線形系)では, 損失が極小となる正弦波発振が安定に生じやすい. この現象は, 我々人間が見ると, 複雑な系に, 単純な周期性をもつ状態が実現され, そこに一種の自己組織化作用が働いているように思われる. 多くの物理系に見られる自己組織化機能の中には, このような単純な物理法則に基づくものが少なくないことを示した. 2.具体例として, 振幅及び周波数が互に異なる2個の負性抵抗発振器を結合したとき, 互に同一周波数で振動する相互同期現象が生じるかどうかを考察した. 一般には, 2つの発振器の特性が近い場合に相互同期しやすいとされてきたが, 我々の結果では, 互に振幅が異なっても, 発振器の周波数を適当に選べば系の損失を極小化でき, 「同期の中心」とでも呼ぶべきパラメータ値が存在することが明らかとなった. 3.強非線形系においては, L, Cのエネルギーと, 系の散逸とがほゞ等しくなり, 現象を複雑とし, その解析も困難であった. しかし, 能動素子が一個の場合には, 平均ポテンシャルの概念を拡張した考え方で, 現象の生じるメカニズムが解明できることを示した. 4.2個以上の強非線形素子をもつ系に生じる現象と, そのメカニズムの解明が今後の課題である.
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