Research Abstract |
木材組織中への液体流動は一般に著しい不均一に進行する. 特定組織への率先流動現象を利用すると, その部分だけを選択的に染色できることから樹種によっては従来の均一染色法とは異なる色調を材料に付与できるものと期待された. そこで, 易浸透性でしかも選択的流動性の著しい樹種の選択と, 選択された樹種についての染色実験を行った. 得られた結果は次のように要約される. 1.供試広葉樹(辺材)35種のうち, 浸透性および選択性の両観点から条件を満たすものはブナ, ケヤキ, リョウブ, ハリギリ, ヤチダモ, ヤブツバキ, シラカバ, シラカシ, アラカシ, ハンノキ, イヌシデの11種であった. これらのうち前7種は早材と晩材間の染色差が著しいため, 同心円的染色パターンを示す. シラカシ, アラカシなどのカシ類は放射孔材で半径方向に道管断面が配列するため, 柾目面では美しい杢を呈して染色される. ハンノキ, イヌシデは多量の集合放射組織を持つが, その部分には液体が毛管圧流動しないため, 染色後はこの部分のみが浮きを上がって見える. 2.易浸透性だが選択性がやや不充分な樹種はミズナラ, スダジイ, クヌギ, ホオノキ, イエローポプラ, タカノツメ, ヤマザクラ, であった. 3.広葉樹心材のうち, ヤチダモは易浸透でしかも選択性が著しい. 4.針葉樹辺材料は易浸透性だが, 細胞構造が広葉樹材より単純なため選択性は広葉樹材よりも小さい. しかし全ての仮道管に均一に流動することは無く, 結果として染色部, 未染色部の入り混じった染色パターンを示す. 5.針葉樹心材は一般に難浸透だが, モミ, ヒノキ, ツガは易浸透性でしかも特有の染色パターンを示す. 以上の樹種のうち, 心材でも易浸透な樹種および辺材幅の広い樹種については, 今後染色材料としての実用化が可能であると結論された.
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