Research Abstract |
近年, 身元不明死体の個人識別に, 口腔領域の歯が利用され重要視されている. 歯や骨からの人獣鑑別は, 歯科法医学における最初に実施する重要課題である. 1965年に人・家畜の四肢骨については, 人獣の相違点を組織学的所見によって明らかにし, 1971年に, わずかなエナメル質からの走査電顯による人獣鑑別法は, すでに我々は報告し, その有用性を明確にした. そこで今回, エナメル質に次いだ個人識別の検体として, しばしば提供される頭蓋骨, 特に歯槽骨につき, ヒトの場合にのみみられる歯周疾患による骨の微細構造上の特徴的変化を指標とし, 走査電顯により人獣鑑別を明らかにした. 1.材料の採取:行政解剖による人屍体から上・下顎骨の一部である歯槽突起部を破骨鉗子にて採取し, これをパラホルム固定液で固定し, 確保した. 2.標本作成:上記の固定した歯槽突起部の歯槽骨から厚さ約2〜5mmの大きさの骨片を作り, 10%の硝酸アルコールにて脱灰し, 水洗, 上昇アルコールにて脱水のうえ, ツェロイジンで包埋し, 約15〜20μの切片標本を作製し, 薄切した組織標本について, ヘマトキシリン・エオジン重染色を施して鏡検した. 一方, 同様の骨片を割断し, その断面を研磨の後, エチレンジアミンで脱有機を行い, 臨界点乾燥後, その面を白金蒸着後, 走査電顯で観察した. 3.観察:歯槽突起部におけるハバース管の形態ならびに大きさと, 単位面積当りの数量およびハバース骨層板系の立体像について検索した. 4.さらにまた, 家畜(犬, 猫, 兎, 豚, 牛, 馬, 羊)の歯槽骨について, 同様, ハバース管の形態, 大きさ, ならびに単位面積当りの数量およびハバース骨層板系の微細構造につき検索し, 両者を比較検討した.
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