Research Abstract |
本研究では, 有機超伝導体分野での新規軸を開拓すべく, 全く新しいタイプのドナー合成を試みる. 具体的には, 中心の不飽和結合として, 炭素の代わりに, ゲルマニウム(Ge=Ge)を含み, カルコゲン元素として, セレン, 硫黄, またはテルルをもつドナーを合成する. この様な系では, π電子の広がりが大きいのでオービタル同志の重なりが大きく, 電子供与性の増大とともに, アクセプターとの相互作用も増幅され, 機能性材料として新奇な性質の発現が期待される. 本年度はまず, セレンを含むドナー合成を行うに当たり, セレンユニットとして光学活性2, 2'-ジセレノシアナトー1, 1'-ビナフタレン(1)(新規化合物)の合成とX線構造解析を行った. 種々の方法を試みた結果, 対応する光学活性ジアミンを原料にして1の合成に成功した. 微妙な制御条件下で再結晶した単結晶のX線解析の結果, 以下に述べるように, ナフタレンの環の捻れ角が非常に小さい(83度:通常2および2'位に置換基のあるビナフチル系では90°以上捻れる)こと, セレン原子が一次元状にvan der Waals半径内で接触し, atomic wireを形成していること, および2このセレン原子はそれぞれ, 5配位の超原子価的性質を有しており, ナフタリン環のπ電子と強く分子間相互作用していることがわかった. c-軸に沿ってセレン原子が右巻らせん状に接触一次元鎖を形成しており, 各々の原子はvan der Waals半径以内で接近していることが判明した. また, 結合している原子を含めて, Se(1)のまわりにはvan der Waals半径の和以内で5この原子(C(2), C(6'), Se(21), C(12), Se(21')が一定の幾何学配置をとって(この場合にはtrigonal bipyramid)を接触している. 一方Se(2)はsquare pyramid型の超原子価配位状態をとっていることが判明した. このような配位状態は2価のセレンとしてはこれまでに例がなく, その電気的性質が期待される.
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