Research Abstract |
転写因子S-IIは, 当初RNAポリメラーゼIIの活性促進蛋白として, マウスエールリッヒ腹水がん細胞から単離された蛋白である. S-IIに対する抗体が単離核におけるRNA合成を阻害すること, また, いわゆるManleyの系の中で, run-off産物の産生を特異的に阻害することから, S′-IIは真核生物の転写因子の一つと考えられるに至っている. 本研究では, このS′-IIのCDNAの単離を行い. その遺伝子の発現パターンを解析したものである. まずcDNAのクローニングについては, 常法に従って, 精製した蛋白の部分的なアミノ酸配列を決定し, それに対応するDNAプローブを準備した. 次に, このDNAプローブを用いて, エールリッヒ腹水がん細胞のCDNAライブラリーをスクリーニングした. その結果, 陽性のクローンをいくつか得たが, 最終的にはPSII-1, pSII-2, pSII-3と命名した三種のクローンを単離した. 塩基配列の分析の結果, pSII-1と3は同一のクローンに由来することがわかった. 一方, pSII-2はこれらの二つのクローンとは異なり, 5′上流部分に78塩基の特異的な配列が存在した. この配列の中にもMetのコドンがあるが, すぐに終止コドンが現れ, その後の配列は三種のクローンで共通であった. 一方, PsII-1および3では, pSII-2の78塩基に相当する部分の中にMetのコドンが一ヶ所あり, これが翻訳開始部位と考えられた. 試験管内での転写-翻訳系を用いて解析した結果, このMetから翻訳が始まれば, 蛋白の分子サイズ, アミノ酸組成ともにS′-IIのそれと一致することがわかった. この結果は, pSII-3がS-IIのCDAであることを示している. 次にpSII-3をプローブとしたノーザン解析の結果, エールリッヒ腹水がん細胞は, サイズの異なる四種類のS-IImRNAを含むことが明らかとなった. この事実は, S-IImRNAには多様生があることを示すが, 各々のmRNAのコードする蛋白の研究はこれから問題である.
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