Research Abstract |
カルシニューリン(CaN)は最初カルモデュリン(CaM)結合蛋白質として脳内に見出され, CaM活性化酵素阻害因子として同定された. ついで, 本蛋白質はCaM依存性プロテインホスファターゼ活性を保持する酵素であることが明らかになった. 臓器分布を調べると, 脳にもっとも高濃度に存在した. 脳内の細胞局在では, ニューロンのみに存在し, グリアには存在していなかった. 本研究ではラット脳よりCaNを精製し, 家兎に免疫してポリクローン抗体を作製し, 以下の知見を得た. 1)免疫組織化学法により, ラット脳の脳内分布, 細胞内局在を調べた. 2)脳内分布を調べると, 大脳皮質, 海馬, 大脳基底核, 黒質に免疫反応性が認められた. 大脳皮質では特にIII〜V層の神経細胞, 海馬では錐体層, 放射状層, 線条体では尾状核-被殻, 黒質では網状部に染色性を認めた. また, グリア系細胞は免疫反応性を示さなかった. 3)酵素免疫測定法を確立した. 本法は1ngCaNを測定可能であった. 本法による定量で, 脳内分布は免疫組織化学法の知見と一致していた. 4)線条体(尾状核)部位を免疫電顕法で調べると, 樹状突起, 細胞質, 神経棘, 軸索, 神経終末に広く反応性を認めたが, 中でも, 樹状突起の後シナプス肥厚部, 微小管上に豊富に認められた. 5)黒質を含めた大脳基底核での免疫活性を調べると, 線条体神経細胞およずその遠心性線維(線条体-淡蒼球路, 線条体-黒質路)に特異的に存在していた. 淡蒼球, 黒質(網状部)のCaN免疫活性は線条体細胞の遠心線維に由来するものであり, 同部に存在している神経細胞はまったく免疫活性を有していない. 6)ヒト死後脳の線条体におけるCaN免疫反応性を調べると, 正常対照と比較してハンチントン病では著明に減少し, パーキンソン病では有意の差を認めなかった. 以上の結果は, CaNが大脳基底核の遠心性ニューロン機能に重要な役割を演じていることを示唆している.
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