私は、本実験においてコイ嗅上皮より抽出したmRNAを用いることにより、卵母細胞に電位依存性内向き整流Kチャンネル(I.R.)を発現させることに成功した(Synapse in press)。I.R.は心筋、脳など様々な組織にみられるにも関わらず、これらの組織から抽出されたmRNAを卵母細胞に注入してもI.R.は発現しないため、この実験がI.R.発現の初めての例となった。この結果はコイ嗅上皮がI.R.に特異的なmRNAを豊富に含んでおり、I.R.をコードしているcDNAのクローニングに適した材料であることを示している。発現したI.R.はNaの関与する不活性化過程を持つこと、低濃度のCsでブロックされるなどの点でホヤ卵で報告されているチャネルに似ている。 I.R.に加えて、電位依存性、TTX感受性のNaチャネルが発現した。Naチャネルの、活性化の閾値電圧、不活性化曲線、TTX感受性は両生類の嗅細胞で報告されているものと似ている。また、詳しく調べてはいないが、外向き電流を流すチャネルが発現している。 コイ嗅覚器においては、アミノ酸が適刺激であるので、各種アミノ酸のイオンチャネルに対する効果を調べた。アミノ酸で卵母細胞を刺激しても、コンダクタンスや電位固定電流に変化は認められず、受容部位の発現が悪いことが示された。上述のイオンチャネルは、嗅細胞に存在することから嗅覚応答に関与していることが考えられる。しかしながら、アミノ酸によるイオンチャネルの電位依存性やコンダクタンスに変化は認められなかった。この結果は、これらイオンチャネルがアミノ酸受容部位ではないことを示唆している。アミノ酸は、セカンドメッセンジャーを介してこれらのイオンチャネルを開くことが考えられるので、現在各種セカンドメッセンジャーの候補物質を卵母細胞に注入して、その効果を調べている。
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