Research Abstract |
ヒト胎盤絨毛細胞膜表面には多量の糖蛋白が存在し,生物学的に重要な役割を果たしていることが知られている。本研究ではその中で特にEGF-R(Epidermal Growth Factor-Receptor)に着目し,各妊娠週期の正常胎盤表面に存在するEGF-Rを免疫組織化学的手法を用いて観察し,その生物学的役割を検討した。従来の報告では,妊娠週数の経過に伴ってEGF-Rの発現量は少なくなり,またラングハンス細胞膜表面にはEGF-Rは局在せず,むしろST(syncytiotrophoblast)の細胞質内に存在する,ということであったが,我々の得られた結果はこれと全く異なるものであった。すなわちEGF-Rは全妊娠週数を通じてほぼ均等に,絨毛細胞(ST,CTともに)表面にのみ存在する結果が得られ,特に免疫電顕法ではCT表面にも多量のEGF-Rの局在することが明瞭に観察された。EGFの考えられる生物学的役割には(1)胎盤の増殖を促す(2)胎盤を構成する細胞(CT,ST)の細胞分化を促す(3)各種のホルモン分布等の機能を促すことの3つのものがあるが,EGF-RがSTのみならずCTの細胞膜表面に存在する事実は,胎盤においてEGFは前述の(1)〜(3)の機能を全て果たしている可能性が示唆された。絨毛細胞の各種異常状態(流産,過期妊娠,胞状奇胎等)におけるEGF-Rの局在形態,及びEGF-Rの量的変化については現在検討中であり,今後新知見が得られるものと思われる。
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