Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
本研究は、レバノン共和国に暮らすマロン派キリスト教徒を対象に、近現代史を通じて信徒が経験した史的変動についての人びとの語りや記憶を通した表現、他宗派等の他者との関係性構築、歴史や他者との関わりで再編されるアイデンティティの実態を明らかにしようとするものである。同時に、これらの調査研究を通じ、新学術領域研究「グローバル関係学」のうち、特に計画研究B01との連携を意図し、地域共同体のアイデンティティを様々なスケールで考察するとともに、特に象徴や感情といった非言語的レベルの事象を社会科学の考察対象に組み入れるという同計画研究に貢献することを意図している。
2019年度末より流行が拡大したコロナウィルスの影響で、同年度は海外調査を中止せざるを得なかったが、20年度も同様な影響のため、本年度もまた海外調査を行わず、その代替案として論文による成果発表と文献研究を行った。本科研は通称「グローバル関係学」の公募研究であるが、20年度は後者全体での成果論文集の刊行が行われた。ここに参加し、論文集全7巻のうちの第1巻に論稿を発表することができたことは、20年度最大の研究成果である。この成果を通じて、本科研で注力した、レバノン社会における微細な相互行為の様相にできるだけ明晰な表現を与えることを実現でき、「グローバル関係学」に一定の貢献を行えたと考えている。また、この成果論文集の企画では、書籍の刊行に加え、各巻のブックローンチ企画も行ったため、自著の内容を公開のオンライン研究会形式で、研究者のみならず一般社会に向けて広く発信することもできた。海外フィールドワークの代替案として行った文献研究としては、本科研費を用いて、社会文化人類学、中東研究を中心に、関連する文献資料収集を行った。特に、近年の文化人類学において着目されるようになった情動論の研究を深めることができたのが、研究課題の遂行に役立ったと考えている。本科研ではマロン派のアイデンティティのゆらぎを、できるだけミクロなレベルで観察するとともに、レバノンが置かれている国内的・国外的文脈といったよりマクロなレベルの動向とも関連付けて考察することを目指すものである。情動論は、ミクロへの志向とマクロとの接点を微細な次元で表現する枠組みのため、本科研の内容を充実させるうえで貴重な手がかりとなった。以上の通り、コロナウィルスの影響で、フィールドワークを通じた新資料の収集はかなわなかったものの、論稿の発表と情動論的アプローチを深化させたことは、代替的な調査研究活動として充実したものととらえている。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
All 2020
All Journal Article (1 results)
酒井啓子(編)『グローバル関係学とは何か』
Volume: - Pages: 191-209