Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
タンパク質は、生物種に固有の遺伝暗号が規定するDNAの塩基配列に正確に対応して配列した20種類のアミノ酸からなる生体高分子である。タンパク質、特に考古学資料の動物骨や歯に含まれるI型コラーゲンはアミノ酸残基数が約1,000ずつの2種類のペプチド鎖からなるため、形態観察が不可能でDNAも残っていない資料でも、残存しているペプチドの質量分析によるアミノ酸配列で動物種を特定し、経年劣化の状況から資料の保存環境が読み取れる可能性がある。このような情報をアミノ酸の「文字列」から解読するためのタンパク質の高感度・高精度分析法を確立することで、パレオアジア文化史学の研究の発展に貢献したい。
本研究の当初の目的は西アジアにおける動物の家畜化から牧畜までの歴史的発展を、動物遺骨から抽出したコラーゲンの質量分析による種判定をもとに行うことであった。そこで研究対象をヤギとヒツジに絞り、西アジアの遺跡で発掘された動物骨の種の判定をもとに解明することを試みた。ヤギとヒツジの骨を構成するI型コラーゲンは、全アミノ酸配列中でわずか4残基しかアミノ酸の違いがないが、本研究でこれらのアミノ酸を含むペプチドをすべて検出・同定できた。この方法をもとに、アゼルバイジャンの新石器時代(今から約8千 年前)のギョイテペとハッジ・エラムハンル・テペ遺跡から出土した 40 種類以上の動物骨について分析した結果、2 種類の骨資料が近世では極めて稀なヤギとヒツジの交雑種と考えられる動物骨試料に遭遇した。ヤギとヒツジの交雑種のほとんどは、胎児か新生児の段階で死亡し、稀に成長しても繁殖能力を持たない。このことから、ヤギとヒツジ家畜化・牧畜の発展史にはこの自然交配を避けるための何らかの技術的な工夫、すなわち牧畜・畜産技術の改革、例えば牧畜の初期段階ではヤギとヒツジ群れを分離することなく放牧または一定の領域に囲い込み、それによって自然交配による家畜増産の障害が顕在化するに及んで、例えばオスが乳生産には寄与しないとの理由からオスの間引きやヤギとヒツジの群れの分離などの対応策が取られたと考えられる。この仮定をもとに、牧畜技術の向上に伴って交雑種が出現する比率が減少し、さらに地域を越えた牧畜技術の伝搬があれば、アゼルバイジャンの例と同様の傾向を示すと期待できる。本研究で確立した動物骨由来のコラーゲンの質量分析を用いたヤギとヒツジの交雑種の同定法を利用することによって、より広い年代と地域にわたる交雑種の出生率の変化から、先史時代から古代に至る牧畜技術の発展と伝搬に関する研究に新しい視点を提供できると期待される。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Applied Sciences
Volume: 12(19), 9476 Issue: 19 Pages: 9476-9476
10.3390/app12199476
Quaternary Science Reviews
Volume: 282 Pages: 107432-107432
10.1016/j.quascirev.2022.107432
Scientific Reports
Volume: 10 Issue: 1 Pages: 1-9
10.1038/s41598-020-63078-5
http://koto.nara-wu.ac.jp/media/media.asp