Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
小胞モノアミントランスポーター1(VMAT1)遺伝子の 136 番アミノ酸の変異 (Thr136IIe)はヒトの進化の過程で自然選択を受けており、さらに集団中で多型が維持されている 。VMAT1 遺伝子の変異は ヒト特有の情動や認知機能など心の個性と関わって、維持されている可能性がある。本研究では、ヒト型変異を導入したゲノム編集マウスを用いて脳機能・ 行動解析と同時に、大規模データ(MRI 画像、心理および認知検査データなど)を用いた解析を行うことで、VMAT1 遺伝子型の違いが脳システムや脳内モノアミン濃度の変化を通じて、個体の行動や精神的個性にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。
申請者らはこれまで、小胞モノアミントランスポーター1(VMAT1)遺伝子において、ヒト系統特異的に出現したアミノ酸置換(136Asn→Thr/Ile)が自然選択を受けてきたことを示した。また、培養細胞を用いたVMAT1タンパク質の機能解析により、この置換がVMAT1の神経伝達物質の取り込み能力に影響することを示している。一方で、ヒト特異的なVMAT1遺伝子変異が関連遺伝子群の発現や脳内の神経活動、そして個体の行動に与える包括的な影響は不明であった。これらを解明するため、本研究では当該の1アミノ酸置換を施した遺伝子編集マウスを作製し、網羅的な行動バッテリーテスト、関連脳部位における脳波測定、および関連遺伝子の脳内発現量測定を実施した。行動実験の結果、136Ile型マウスは野生型(Asn型)あるいはThr型マウスに比べて、不安様行動が少ないほか、社会性行動に変化が見られた。また、高架式十字迷路試験を実行中のマウスの脳内に電極を挿入し、開放・閉鎖アーム滞在時における神経活動を測定した。不安傾向に差が見られたことをふまえ、背内側前頭前皮質および扁桃体の神経活動に着目したところ、他の遺伝子型に比べて、136Ile型マウスは扁桃体の神経活動に違いが見られた。さらに、各遺伝子型4個体の前頭前皮質、扁桃体、線条体を用いて、網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq)を行なった。その結果、136Ile型マウスは野生型マウスに比べて、扁桃体において神経伝達に関わる遺伝子群の発現が低下していることが明らかとなった。これらの結果は、これまで中枢神経系での役割があまり解明されていなかったVMAT1遺伝子の作用機序を新たに示す研究成果であるといえる。また、人類進化の観点からも、VMAT1遺伝子がヒトの情動進化に果たした役割を実験的に明らかにした重要な成果であると考えられる。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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BMC Evolutionary Biology
Volume: 19 Issue: 1 Pages: 220-220
10.1186/s12862-019-1543-8