Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
ヒトを含む霊長類は、進化の過程で集団サイズを大きくしてきた。この集団の維持には、個体間で同調する性質が必要であるとともに、環境の変化に対し個体間に差(=個性)があるほど、生存確率を高める要因(例えば報酬やリスクに対する感受性)を広くカバーできると考えられる。しかしこれまで、霊長類は社会的動物とまで呼ばれるにも関わらず、モデル動物として脳の神経活動を記録し調べた研究は少ない。そこで高度な社会性を持つサルを対象とし、生存に密接に関係する報酬系の神経機構、特に社会生活の中で重要な他者の報酬に対する感受性を支える神経機構に焦点を当て、行動・神経細胞活動の記録・解析を行う。
本年度は、社会的条件づけを自閉スペクトラム症に関係すると考えられる遺伝子変異を持つサル個体に対しておこない、報酬情報の学習速度および神経活動を測定した。神経活動は、内側前頭前野(mPFC)の神経細胞および中脳ドーパミン神経核(DA神経核)のドーパミン細胞(DA細胞)から同時記録した。測定した学習速度および神経活動を、変異を持たないサル個体らのそれらと比較した。その結果、自閉スペクトラム症に関係すると考えられる遺伝子変異を持つサル個体において、報酬情報の学習は、変異を持たないサル個体らに比べて遅かった。また、変異を持つサル個体におけるDA細胞やmPFC細胞の報酬を予測する刺激呈示に対する神経活動の応答は、変異を持たないサル個体らと比較し、優位に早かった。さらに変異を持つサル個体において、領域間の協調活動を示すコヒーレンスが、mPFC―DA神経核間のθ波およびδ波の周波数帯域(おもに4Hz以下)で有意に小さかった。加えてGranger causality解析の結果、変異を持たないサル個体らは、mPFC→DA神経核というトップダウンの神経情報の流れが優勢であったのに対し、変異を持つサル個体では、DA神経核→mPFCというボトムアップの神経情報の流れが優勢であった。これらの結果は、自己および他者の社会的報酬情報処理における生理学的知見、および個体差についての生理学的知見と、自閉スペクトラム症に関する遺伝子レベルの知見とを結びつけた点で重要である。以上の結果をまとめ、現在論文として投稿中である。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
All 2022 2020 2019
All Journal Article (1 results) Presentation (3 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results, Invited: 2 results)
Clinical neuroscience
Volume: 38 Pages: 378-380