Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
ハイエントロピー合金は次世代材料として注目されていますが、何故良い特性を持つのかはわかっていません。材料特性の良し悪しは、原子スケールの構造ひずみが関係していると思われていますが、これまでに十分に明らかにされていません。特に、加工や構成元素の入れ替えによる構造の変化が、材料特性にどの様に影響しているかを明らかにする必要があります。中性子線を用いた回折実験は、その高い透過性を生かしてバルク材料内部の微視構造情報を引き出すことができる強力な方法です。申請者は、中性子線の特徴を生かした構造解析を各種ハイエントロピー合金に対して行い、構造と材料特性の関係解明を目指します。
ミディアムエントロピー合金T-CoNi(T=クロムCr、マンガンMn、鉄Fe)における局所構造の違いを実験的に検証するため、前年度に引き続き広域X線吸収端微細構造解析(EXAFS)および中性子全散乱実験を行った。EXAFS実験では箔状試料を用いた透過法による実験に成功し、前年度の蛍光法による実験結果を定性的に再現する結果を得た。コバルト原子を最近接にした単純な構造模型による分析から評価したアインシュタイン温度(結合力の大きさ)は、FeCoNi合金とCrCoNi合金で10ケルビン程度の差が見られた。またMnCoNi合金とCrCoNi合金の静ひずみの大きさはFeCoNi合金に比べて一桁程度大きい値であることがわかった。詳細な分析には現実的な構造模型の構築が必要となっている。J-PARC MLFにて中性子全散乱実験を同組成の3種の合金に対して行い、二体相関関数の比較により局所構造の違いを調べた。MnCoNi合金においては平均構造から予想される二体相関関数からの明確なずれと、何らかの短距離秩序を示唆する散漫散乱が観測された。その一方、CrCoNi合金とFeCoNi合金では平均構造からのずれは殆ど見られなかった。MnCoNi合金で観測された散漫散乱は、サブナノメートル領域での原子分布の偏りに起因している可能性がある。中性子全散乱の手法は合金中の短距離秩序の観測に有効であり、短距離秩序と材料特性の相関の解明には欠かせない強力なプローブであることを示した。今後、当該年度までに得た研究成果を発展させることで、1.当該合金中の短距離秩序の原因解明と、2.短距離秩序と材料特性の相関の解明に至る。特に構造モデリングによる部分相関関数の抽出と、その分析は重要であり、優先して研究を進める必要がある。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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