Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
時間感覚は、言語コミュニケーションに重要な役割を果たしており、複雑な発話順序の制御や、プロソディーによる他者の心的状態の理解などに役立っている。しかし、言語的発話を行う動物種は少なく、発話において時間を制御する神経機構の詳細はいまだ解明されていない。そこで本研究は、ヒトの発話と類似の音声コミュニケーションを行うキンカチョウという鳥を用い、特に、ヒトの言語野との遺伝的・機能的共通点が見られる大脳皮質の感覚運動野(HVC)の活動を記録・操作することによって、発話のリズムや順序を制御する神経機構を調べるとともに、こうした神経機構が、発達や運動障害によって調節される過程も明らかにすることを目指す。
本研究は、歌をさえずるスズメ亜目の鳥(songbird, 歌鳥)の一種キンカチョウが、ヒトと類似の言語的発話を通してコミュニケーションを行う社会的な動物であることに着目し、その発声の時間制御をささえる神経メカニズムの解明を目指している。本研究では、短時間フーリエ解析を利用した新しいアルゴリズムでキンカチョウの発声に含まれるリズムを解析したところ、成熟したキンカチョウの歌には10 Hz程度のリズムが認められた。この10 Hzのリズムは、大脳皮質運動野(HVC)で生じる神経活動のリズムとも一致しており、さらに、幼少期の経験を操作することによって、このリズムの安定化を操作できることも明らかになった。幼少期のHVCの神経活動には、成熟した鳥の歌を聞いた前後で、発声と関連した活動が増大するという興味深い現象も観察できており、発声のリズム成熟にHVCが関与している可能性が強く示唆された。また、社会的隔離を経験した鳥の歌では、発声の順序を人工的に入れ替えてシャッフルするとテンポの安定性が崩れるという、通常の鳥の歌では認められる時間的性質が認められなかった。このテンポの発声順序依存性は、リズムをもった音声なら必ず見られる特性というわけではなく、たとえばマウスが求愛時に発する超音波域の発声や、ヒトの言語的な音声も一定のテンポを持つが、その発声の順序を入れ替えてもテンポの安定性は変化しなかった。しかし、興味深いことに、ヒトの音楽的な歌(独唱)は、キンカチョウの歌のように、順序を入れ替えることでテンポの安定性が崩れることがわかった。シミュレーションの結果から、キンカチョウの歌やヒトの歌に見られる発声順序依存性は、オシレーターのようなメカニズムでそのリズムが維持されているという可能性が示唆されている。現在、これらの成果をまとめ、国際専門誌への投稿準備を進めているところである。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
All 2019
All Presentation (2 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results)