Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
テロメアなどのグアニンに富む塩基配列は、グアニン四重鎖(G4)と呼ばれる特殊な核酸高次構造を形成する。しかし、G4を生体レベルで検出・制御する技術は十分確立しておらず、この構造の真の生理的意義は不明である。本研究は、オミクス解析を基軸とする分子プロファイリングにより、G4の生理的意義の解明を目指す。具体的手法として、種々のG4安定化剤(G4リガンド)で処理したヒト細胞内の分子変動を網羅解析し、G4が本来つかさどる生理機能を描出する。本研究は化学シグナルと細胞応答を紐付けるため、創薬研究への応用展開も可能である。
グアニン四重鎖(G-quadruplex: G4)安定化物質(G4リガンド)であるテロメスタチンもしくはPhen-DC3を処理したヒト膵がん細胞のiTRAQプロテオーム解析により、これらのリガンドで共通して減少するタンパク質群を選別した。これらのうち、G4リガンドの作用点と想定されるG4形成配列を有する28個のタンパク質群を抽出し、さらにcBioPortalおよびDepMapプラットフォームのウェブ公開データベースを参照することで、遺伝子配列内にがん性のドライバー変異を有し、かつ、がん細胞の生存を支持すると想定される6つのタンパク質をG4リガンドの直接の標的候補因子として同定した。膵がん細胞をテロメスタチンもしくはPhen-DC3で処理すると、これらのタンパク質の発現レベルが実際に減少することをウェスタンブロット解析で確認した。以上の結果から、G4リガンドは上述の遺伝子群のmRNA上に形成されるG4構造を過度に安定化することで、当該転写産物からのタンパク質への翻訳を抑制し、制がん効果を発揮する可能性が示唆された。また、ミトコンドリアゲノムにはG4形成配列が豊富に存在することと一致して、同ゲノム由来の遺伝子発現はG4リガンドの影響を受け易いことが明らかとなった。このことから、G4は本来、ミトコンドリア遺伝子の発現を制御している可能性も示唆された。以上の結果を「化学コミュニケーション」の見地から考察すると、自然界に存在するテロメスタチン、ベルベリンなどの天然性のG4リガンドは、他の生物種のゲノムDNAもしくはRNA上のG4を安定化することで、当該因子の機能発現を抑制し、生存競争における優位性の獲得に貢献している可能性が考えられる。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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