Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
生物の特徴の一つは、胚発生から生体の形態・生理機能の維持まで、エントロピー(乱雑さ)が増加しないことである。特に胚発生においては、はじめはひとつの細胞(受精卵)であったものが細胞分裂を繰り返し、個々の細胞の運命が決定されることで生物種特有の体制を作り上げていく。では、このような胚の秩序立った組織化の背景にはどのようなメカニズムが存在しているのだろうか?本研究課題ではpescoidと呼ばれるゼブラフィッシュ胚から作成される細胞塊を用いて、自己組織化における細胞の挙動と極性の確立について迫る。
本研究課題ではまず、先行研究において用いられているゼブラフィッシュ自己組織化細胞塊の作成法を追試し、その実験系と条件を確立した。次に各種mRNAレポーターを用いて標識した細胞について平均二乗変位 (Mean-Square Displacement: MSD) の解析をおこなったところ、アンサンブル平均(個々の細胞の集合平均)MSDは時間の経過に伴って線形に増加し、ブラウン運動に近い挙動を示していることが明らかとなった。しかし、個々の細胞の挙動に着目すると、時間平均MSDが単調増加し細胞の移動距離が大きいもの、時間平均MSDが時間経過に伴って現象するもの、時間平均MSDがほとんど増加せず極端に移動度が低いものなど、いくつかの特徴を示す細胞群の存在が明らかとなった。また、上記で求めたアンサンブル平均MSDと時間平均MSDを比較したところ、両者は一致しなかった。このことから、自己組織化過程においてエルゴード性の破れ(系が平衡状態でないこと、個々の細胞が時間変化に伴ってその性質が変化していること)が示唆された。次に自己組織化過程における細胞集団の物性的性質とその挙動に着目した。その結果、自己組織化細胞塊を構成する個々の細胞の大きさは時間経過に伴って現象すること、また細胞間隙は時間経過に伴って増大することが明らかとなった。さらに、個々の細胞の挙動を観察したところ、細胞分裂に伴う細胞の円形化(mitotic cell rounding, MCR)が観察され、これによって細胞間隙が時間経過に伴って増大している可能性が考えられた。以上から、自己組織化過程において自己組織化細胞塊は個体様から液体様へとその物性を変化させている(solid to fluid transition, unjamming)可能性が考えられた。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。